映画評「負け犬の美学」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2017年フランス映画 監督サミュエル・ジュイ
ネタバレあり

ボクサーものと言えば英米映画と相場が決まっているが、珍しいフランスのボクサーものである。

45歳の今日まで13勝33敗3分けという、成功とは程遠い成績の中年ボクサー、スティーヴ(マチュー・カソヴィッツ)は、美容師の妻マリオン(オリヴィエ・メリアティ)、日本で言えば中学1年生くらいの娘オロール(ビリー・ブラン)、小学下級生の息子オスカー(トミー・ルコント)を養う為に、バイトにも精を出さねばならない。
 そんな折地元ル・アーブルに大物ボクサーのタレク(スレイマヌ・ムバイエ)が欧州タイトル戦にやって来るのを知り、スティーヴはスパーリング・パートナーを申し込む。何とか三人の一人として雇われた後一度首になるが、心理面・作戦面のアドバイスを気に入られ再雇用される。スティーヴがピアノの才能を伸ばせて上げたがっているオロールは、無理して観せて貰った公開スパーリングに失望する。父親が観客に愚弄されるのが辛かったのである。
 結果的に父親がこれを限りにと臨んだ引退試合の見学も回避するのだが、父親は厳しいことを言うことも多い妻の声援を背に奮闘して勝利、娘に勝利を報告する。

ヌーヴェルヴァーグ以降のフレンチ・ドラマは、アメリカ映画のような劇的な要素を排除した即実的な作りが目立つ。アメリカ映画なら娘が途中で姿を見せ、それを見て主人公が奮闘するといった展開になるのではないか。対する本作のような作り方に対し、淡々としているという評価をする方が多いが、どちらか言うと否定的な言い方なので、僕は即実的という言い方をしたい。

いずれにしても、本作は、良い場合のフランス映画らしさを発揮した内容と言って良いと思う。
 ぎすぎすした家族を描く作品が多い中、この映画の家族は妻も娘も息子も主人公に対して素直で実によろしい。妻は一見夫に厳しいが、その裏に夫への愛情が垣間見える。思春期初めの娘も変な風にひねくれていない。主人公ご本人も一見不愛想だが、冷たくなく、自然体。実に平均的な中年男性像と感心させられるのである。

映画的に格別優れていると言いたくなるところはないが、しみじみとした味わいは得難い。

邦題の“負け犬の美学”とは、主人公と言うより最後に出て来る実在の弱すぎたボクサーに捧げられた献辞であり、負けても負けても試合を続けた事こそ彼等の美学であると、配給会社の人たちは感じたのだと思う。

邦題批判について。インテリが不満を覚える題名が案出される背景には大衆の題名に対する感覚があるわけで、その傾向を変えるには、題名に内容或いは情緒を求めすぎる大衆の知性を向上させる必要がある。難しいことであろう。

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