映画評「サンドイッチの年」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1988年フランス映画 監督ピエール・ブートロン
ネタバレあり

ユダヤ人の差別を描いた映画はホロコーストもしくは同時期の差別を描く作品が目立つが、本作は終戦の2年後を主たる舞台とした青春映画仕立てである。
 30年ほど前に観たことがある本作も「洲崎パラダイス・赤信号」に続いてYouTubeで再鑑賞。但し、VHSのダビングのアップなので画質は余り良くない。僕が全く理解できないフランス語の映画につき、字幕付きなのは有難かった。

1947年。戦時中に両親をナチスに連行された後他人の家で育てられた15歳のユダヤ少年ヴィクトール(トマ・ラングマン)が、その家を出て、両親の連行直後に援助してくれた老婦人を訪れようとパリに出て来たのだが、道に迷って少し年上くらいのアーリア少年フェリックス(ニコラ・ジロディ)に案内してもらい、やがて意気投合する。
 ヴィクトール君はユダヤ人古物商マックス(ヴォイチェフ・プショニャック)に住み込みで雇われる。彼がすっかり店に馴染み、フェリックス君との友情を深めた頃、店にガソリンの横流しの話を持ってきた若者(クロヴィス・コルニャック)の仕事のゴタゴタに巻き込まれた結果、フェリックス君が負傷、アーリア人や上流階級の意識の高い親にヴィクトールとの交流を差し止められる。
 それから数十年後ヴィクトールの店が差別主義者に襲撃されたのを知ったフェリックスは少年時代以来初めて彼の許に駆け付けようとするが、その必要もないと気付く。

冒頭に置かれる現在の挿話は、1947年彼らがミドルティーンだった頃の青春模様を導く為の導火線みたいなもの。1947年のお話のうち80%くらいは、人生経験が決定的に足りないヴィクトールが僅かに年上らしいフェリックスに頼って色々と繰り広げる人生における冒険を綴るもので、その背景に揺曳するのが戦後どころか現在(多分1980年代)にも続くユダヤ人差別の問題である。

そうした背景の中で民族差や階級差をものともしないフェリックスは実に好もしい少年で、映画や本を介した二人の友情涵養場面が非常に快い。

お話の幅を広げるのは、マックスの反アーリア人の塊みたいな人物像造形で、最初は訝しく厄介な人物のように見えるが、実は好々爺で、少年にも嫌っていた犬にも愛情を覚え、最後には友情を阻害されて傷ついた少年を温かく慰める。老人の人物像が滋味を醸し出し、最後にじーんとさせる。小市民生活をユーモラスに点出した後だけにその味わいもひとしお。この老ユダヤ人は神を信じず、広い意味のヒューマニズム(人間主義)を実践する人であった。

映画と直接的には関係ないことだが、ユダヤ人の差別はその原因の大半が新約聖書時代にまで遡るとはいえ、殆どは噂程度のものから作られた嫌悪に立脚しているのに過ぎないと僕は思うのである。全くつまらないことだ。その原因は恐れだろう。

トマ・ラングマンは現在製作者として活躍しているらしい。

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この記事へのコメント

vivajiji
2020年06月19日 11:46
http://blog.livedoor.jp/vivajiji/archives/51226251.html
こういう逸品をNHKBSでね、かけてくれると
往年映画ファンはうれしいですよね。
知名度はほとんど無いに等しいでしょうけれど。
なぜか偏屈落語家の話の間に、まさにサンドイッチの
ように挟んだ拙記事お持ちしました。

>新訳聖書
みなさんよく間違われるのですが
「新約」ですね。神と人との間の
契約の書物ですから。そしてユダヤ人は
イエス以後書かれた新約聖書は認めて
いないのでこの場合は旧約聖書ですね。
しかし、昨今では無神論のユダヤ人は
ゴロゴロいるそうです。
モカ
2020年06月19日 13:38
こんにちは。

名作認定のレビューありがとうございます。
これと「ヨーロッパ ヨーロッパ 僕を愛したふたつの国」が長い間観たいのに再見不能になっていましたが、サンドイッチのほうは中古VHSを買うことができました。と思ったら最近再生装置がダウンしてしまいました。
youtubeにアップしてくださった方、どこのどなたか存じませんがこの場を借りて御礼申し上げます。

古物商マックス(ヴォイチェフ・プショニャック)
 同じユダヤ人を演じていても「コルチャック先生」とは全く印象が異なりますね。「上手い」なんてお手軽に褒めるのも失礼かもしれませんが上手いです。

 ヴィクトールが名前を聞かれて答える場面が都合4回?くらいありますが、それぞれの場面での名乗り方に彼のおかれた困難な立場とそれを踏まえて成長していった証が見えて印象に残っています。 

オカピー
2020年06月19日 21:24
vivajijiさん、こんにちは。

>こういう逸品をNHKBSでね、かけてくれると
>往年映画ファンはうれしいですよね。

そうなんです。ハイビジョンである必要はないですが、もっと綺麗な画面で観てみたい。

>>新訳聖書
>みなさんよく間違われるのですが「新約」ですね。

色々出入りがあるにしても旧約・新約聖書を通読し、アウグスティヌス、トマス・アクィナス、カルヴァンの著書も読んでいる僕ですから、勿論存じ上げております。
 勝手にこんな字を出すパソコンが悪いんですよ。校正する時に見落としてしまいました。で、こっそり直しました(笑)

>この場合は旧約聖書ですね。

いや、僕は、白人がユダヤ人を差別する第一の、そして大半の原因を、ユダヤ人がキリストに冷たい仕打ちをしたことにあると思っているので、新約聖書の時代と言ったわけです。「ソハの地下水道」で出て来るように、キリスト教徒の中にはキリスト本人がユダヤ人であることも知らない人が案外多いのではないでしょうか。

>昨今では無神論のユダヤ人は
>ゴロゴロいるそうです。

ウッディー・アレンの映画を見るとよく解りますね。多分アメリカのユダヤ人に無神論の人が多いと思います。
オカピー
2020年06月19日 21:38
モカさん、こんにちは。

>「ヨーロッパ ヨーロッパ 僕を愛したふたつの国」

観られない映画が多いなあ。衛星放送も、レンタルも、セルソフトも充実していると言うのに。

>最近再生装置がダウンしてしまいました。

あらら。
 我が家のVHSは何とか生きております。図書館から借りると、ダビングしてブルーレイに入れておきます。

>「コルチャック先生」

これも見直したいですね。随分忘れているので。
 図書館にビデオがありました。スケジュール次第ですが、遠くない将来に観るかも。

>それぞれの場面での名乗り方に彼のおかれた困難な立場とそれを踏まえて>成長していった証が見えて印象に残っています。 

最初のうち名乗ること自体に躊躇が見えましたものね。