映画評「ミツバチのささやき」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1973年スペイン映画 監督ヴィクトル・エリセ
ネタバレあり

1970年代までフランコ独裁政権(1939~75)の為か、スペイン映画は殆ど輸入されなかったわけだが、ヴィクトル・エリセ監督がその政権末期に作ったこの旧作が1985年に突然公開されて評判を呼び、その後カルロス・サウラ監督やペドロ・アルモドバル監督の作品群など、スペイン映画が少なからず公開されるようになる。この映画が為した日本の映画興行界における功績は頗る大きい。

映画館で観た後、衛星放送で一度観ているので、今回は都合三度目。

スペイン内戦が終息に向かっていた1940年。スペインの或る小村に巡回映画館が訪れ、ジェームズ・ホエール監督の「フランケンシュタイン」を上映する。怪物が少女と一緒に花をちぎって川に投げる場面(この後、画面には出て来ないが、怪物は花と区別をつけられず少女を川に投げる)が集まった子供たちにショックを与え、中でも6歳くらいの少女アナ(アナ・トレント)の脳裡に強く焼き付き、彼女を介して幻想的な場面が生み出される。
 少女は、姉イサベル(イサベル・デリュリア)と一緒に小冒険をしたり、死んだふりの姉に驚いたり、少女にとってフランケンシュタインの怪物に相当する逃亡者(フランコ側と敵対した人民戦線派の元戦士であろう)を甲斐甲斐しく世話したりする。

逃亡者との交流は1940年頃のスペインの内情を多少理解しておく必要があるが、それ以外の小冒険の数々は、僕らが子供時代に経験した類似の小冒険を想起させ、実に懐かしい気分に浸らせる。エリセ監督の優れた観察眼が生み出した成果だろう。

フランケンシュタインの怪物に始まり、神秘主義的に解釈された“死”の厳粛が映画的ムードを決定する一方、父親の飼うミツバチ、キノコ狩り、焚火を上を飛び越える少女たち等、牧歌的・幻想的な場面の数々が、幼女アナの心象風景を鮮やかに映し出す。珠玉の名編と言うべし。

宮崎駿は「ピーター・パン」の外にこの映画の要素を取り入れて「となりのトトロ」(1988年)を作ったような気さえするくらい、類似するところがある。

子供にとって森羅万象は全て神秘(例えば突然現れた逃亡者でさえ)だが、大人が考える神秘とは違う。もっと純粋だ。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

ナイス

この記事へのコメント