映画評「バーニング 劇場版」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2018年韓国映画 監督イ・チャンドン
ネタバレあり

イ・チャンドンは、キム・ギドクやパク・チャヌクと並んで僕が評価する韓国の監督である。
 彼等は韓国大衆映画の基本スタンスであるギャグとシリアス性のギャップで見せる泥臭い手法を取らない。韓国人は一般人でも大袈裟な表現をするので、それで笑ってしまう分にはギャグとは言わないわけで、それは良い。イ・チャンドンやキム・ギドクにはそれすらない。
 本作のそのイが村上春樹の短編映画を原案に作り上げたドラマである。

大学を卒業した後運送会社でアルバイトをする青年イ・ジョンス(ユ・アイン)が、デパートの広告ガールをしている幼馴染シン・ヘミ(チョン・ジョンゾ)と再会する。近くアフリカ旅行をするヘミはジョンスに留守の間にネコの面倒を見てほしいと言われるが、しばしば部屋を訪れることになる。
 やがてヘミは現地で知り合った裕福な韓国青年ベン(スティーヴン・ユアン)を伴って帰国するが、どうも彼女は彼に気がある模様。ソウルで食事をした後、後日今度は北朝鮮国境に近いジョンスの実家を訪れる。ゆったりと三人で過ごす夕暮れ時に、ベンは自分はビニールハウスを燃やすのを趣味としていて、近々この近くでそれを実行すると彼に告げ、彼女とソウルに戻っていく。
 翌日からヘミの行方が解らなくなり、懸命に探し続けるジョンスはベンの家でヘミに進呈した腕時計と猫を発見する。彼女がいなくなった理由を確信したジョンスはベンを刺殺してその愛車であるポルシェに乗せて火を放つ。

ジョンスが復讐の為にベンを殺すというジャンル映画的な内容であるなら100分もあれば十分で、50分がところ長いが、イの狙いが映画本編中でも語られるようにメタファー(の作品)である故に、かように長尺になったということは理解できる。

メタファーは殆ど社会問題に言及するもので、ベンの言う“ビニールハウスを燃やす”のは殺人の意味らしいが、殺人ではなく、人身売買の可能性がある。仕事もしないで女性ばかりを侍らせる彼が金持ちなのは、国内だか国外だか解らぬものの女性を売買しているからではないか? 
 それでもイ・チャンドンは殺人か人身売買かを追求するというジャンル映画的な要素に興味を示そうとはしない。寧ろ、国境沿いのサビれた様子とソウルの対照的な様子を見せることに傾注する。そこから推して知るべき問題があるということなのだろう。

見せ方としては、彼女が練習中のパントマイムを見せる時に“ないことを忘れるのよ”と言うが、消えた彼女について主人公が“いないことを忘れられるか”というテーマも見えて来る。ただ、パントマイム、時計、ネコといった布石を丹念に置く部分が必ずしも要領を得ていないように思えるので、特に映画言語を解釈する能力に秀でた人でもない限り前半はひどく退屈する可能性が高い。

こういう作品は何度か見ると格段に面白くなるのは解り切っているのだが、僕は採点は一回勝負ですることが多いのでご承知あれ。その点イの前作「ポエトリー アグネスの詩」は最初からピントがあって感服したのである。

持病を持つ僕はこの映画を観た後の一週間辛い日々を過ごしたが、寝る前に一昨日の新聞にワクチン製造のニュースを見出し希望が湧いた。以前TVでやった内容と大差はないものの、(9月に供給を開始し)10億回分製造を整備という具体性が希望を増させたのである。おかげで良く寝られた。研究元のオックスフォード大が情報を完全に開示すると言っているのも良いね。

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この記事へのコメント

モカ
2020年05月25日 14:33
こんにちは。

先生、まだ完全回復しておられませんね。
イ・チャンドンとキム・ギドクの名前が混乱しております。(笑)

未見ですが「猫」「ビニールハウスを焼く」がキーワードって、相変わらずな村上春樹ですね。
初期短編に「納屋を焼く」っていうのがありました。(アラン・ドロンの映画にこんなタイトルのがありましたね。春樹は見ていないと書いてたように思いますが)

イ・チャンドンの映画には結構打ちのめされているので(いい意味で)春樹とタイアップと聞いて一抹の不安を覚えておりましたが、やはりロクなこっちゃなかったようですね。やれやれ・・
モカ
2020年05月25日 17:27
訂正です。

これが「納屋を焼く」を映画化したものでしたね。
名前の混乱を指摘している場合じゃございませんでした。

韓国の名前は単純でどれもよく似ているので却って覚えにくですね。

アラン・ドロンのは「燃え尽きた納屋」でした。
オカピー
2020年05月25日 20:58
モカさん、こんにちは。

>イ・チャンドンとキム・ギドクの名前が混乱しております。(笑)

完全回復は程遠いですが、これには我ながら大受け。自分の混乱ぶりに笑い過ぎて涙が出てきました。さっきも風呂に入りながらゲラゲラ思い出し笑いをしましたよ。こういうのは実に健康に良い^^v
 因みに、こっそり修正しておきました。

>これが「納屋を焼く」を映画化したものでしたね。

短編なので、原案程度のようなものらしいですが。
 前回の不調中に村上氏の「海辺のカフカ」を読んでさらに不調になったので、暫く(コロナ終息まで?)避けるようにします。全部が全部そういうわけではないでしょうが。

>アラン・ドロンのは「燃え尽きた納屋」でした。

地味ですが良い映画と思いました。完成度から言えばドロン主演映画の中でベスト10に入れても良い印象。
モカ
2020年05月26日 17:44
こんにちは。

「燃え尽きた納屋」
シモーヌ・シニョレ、良いですね! 
イヴ・モンタンの浮気には悩まされたらしいですが、そういう人生経験も演技に反映されているのでしょうか、渋いですね。
塩分きつい目の色艶?
昔はこういう女優さんが日本にもおられましたが、今はもう世界的に絶滅危惧種でしょうか・・
オカピー
2020年05月26日 20:39
モカさん、こんにちは。

>イヴ・モンタンの浮気には悩まされたらしいですが、
>そういう人生経験も演技に反映されているのでしょうか、渋いですね。

芸のこやしというやつですかね。
 アラン・ドロンとは「帰らざる夜明け」でも共演していて、映画を締めていました。
 晩年の「これからの人生」も実に良かった。これはTVではいっさい放映していないんじゃないかなあ?
モカ
2020年05月27日 14:10
こんにちは。

>芸のこやしというやつですかね。

 「芸のこやし」の犠牲者です!

>アラン・ドロンとは「帰らざる夜明け」でも共演していて、映画を締めていました。

 これも”年上の女”でしたね。「年上の女」がよく似合う人です。

>晩年の「これからの人生」も実に良かった。これはTVではいっさい放映していないんじゃないかなあ?

 1979年ですね・・・私はこの年は色々ありまして映画は何にもみておりません。(泣) 

 同じ監督の「いとしの君へ」はご覧になりましたか?
未見ですが、バーニス・ルーベンスの原作を読んだので前からみたいなぁと思っていますが、ビデオになっていないようです。
 ちなみに「マダム・スザーツカ」も同じ作者です。これは見ましたがDVD化されていないようです。
 ルーベンス、一応ブッカー賞も取ってますけど、人気ないのか、忘れ去られていくんでしょうかね。
オカピー
2020年05月27日 21:32
モカさん、こんにちは。

>「芸のこやし」の犠牲者です!

ホンマでっか!

>同じ監督の「いとしの君へ」はご覧になりましたか?

これは見られなかったですね。
 モーシェ・ミズラヒのようなタイプは、残念なことながら、映画館で見のがすとなかなか観られないと思います。

>ルーベンス、一応ブッカー賞も取ってますけど、人気ないのか、
>忘れ去られていくんでしょうかね。

僕の通っている町の図書館(山の図書館もあるので、こう言っております)には、6作品置いてありましたよ。なかなかやるでしょ。
モカ
2020年05月27日 22:01
こんばんは。

誤解を解いておかないと寝つきが悪いので速攻書き込みますが、芸のこやしの犠牲者はシモーヌシニョレの事ですよ。 モカ婆だと思いましたね? 
シモーヌシニョレはモンタンとモンローの浮気を苦にして自殺未遂したと、ウィキに書いてました。 真偽の程は定かではありませんが、大いにあり得ると思います。 モンタン、どう見ても女たらし〜

バーニスルーベンスが6冊はすごいです。 多分、あんまり借り手はないと思いますが。なんせユダヤ系イギリス人ですから。 暗くて切ない…
オカピー
2020年05月28日 08:59
モカさん、こんにちは。

>芸のこやしの犠牲者はシモーヌシニョレの事ですよ。
>モカ婆だと思いましたね?

思いましたよ(笑)。どうも変だと思った!

>モンタンとモンローの浮気を苦にして自殺未遂したと、ウィキに

「恋をしましょう」での共演で恋が芽生えたわけですね。何だか父親が勝っていた平凡にそんな記事が読んだ記憶も(ずっと後年に)。その直前にシモーヌは結婚生活に悩む「年上の女」に出演していた。何だか現実を先取していたような。

>バーニスルーベンスが6冊はすごいです。

えっへん。外国の作品が一番充実しているはずの県立にも一つしかなかったので、“町の図書館”は頑張っていると思ったです。
モカ
2020年05月28日 20:56
こんにちは。

B・ルーベンスが6冊、という事は創流社刊のルーベンス選集6巻でしょうね。たぶんそれ以外には「マダム・スザーツカ」ぐらいしか翻訳されていないようです。
私はヤフオクで6巻で送料込みで2千円くらいで買いまして、ほぼ新品でした。推測ですがこの出版社はもう消滅していて、在庫本が裏流通ルートに乗ったんじゃないかと思っています。
ひょっとしたら図書館にも漂流していったのかもしれませんね。

シモーヌ・シニョレとジャン・ロシュフォールで映画化されたのは「ポースコールより、愛をこめて」です。
後書きによると日本では未公開とのことです。
これはなかなか良かったです。
 



オカピー
2020年05月28日 21:49
モカさん、こんにちは。

>B・ルーベンスが6冊、という事は創流社刊のルーベンス選集6巻でしょう

確かに同じ出版社でした。

>推測ですがこの出版社はもう消滅していて、
>在庫本が裏流通ルートに乗ったんじゃないかと思っています。
>ひょっとしたら図書館にも漂流していったのかもしれませんね。

なるほど。

>シモーヌ・シニョレとジャン・ロシュフォールで映画化されたのは
>「ポースコールより、愛をこめて」です。

映画と原作と全く違うタイトル(邦題)なので、まるで見当がつきませんね。近作であればタイアップして揃えることが多いですが、地味な純文学では配給会社が勝手につけがち。まして未公開相当であればなおさら。
 スタッフもキャストも内容もなかなか良さそうなのに、「いとしの君へ」は、当時欧州秀作群を輸入していたフランス映画社辺りがどうして買わなかったかな?