映画評「初恋~お父さん、チビがいなくなりました」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2018年日本映画 監督・小林聖太郎
ネタバレあり

西炯子という女性は小説家かと思ったが、Wikipediaで調べたら漫画家だった。彼女のコミックを、刺激とは程遠い作品を得意とする小林聖太郎が映画化したホームドラマ。
 僕らより一回りくらい上の老夫婦のお話だが、とても他人事とは思えず、胸に刺さる。とりあえずお話。

結婚して五十年を超える老夫婦の妻有喜子(倍賞千恵子)は、頑固で口数の少ない夫・勝(藤竜也)の態度に寂しさを募らせ、子猫から育てて来た高齢黒猫のチビと、韓国ドラマのハンサム青年でその寂しさを紛らわせていく。
 ある時チビが帰って来ず、心に隙間の出来た彼女は、次女・菜穂子(市河実日子)に、“父さんと別れようと思う”と思わず洩らしてしまう。同時にペット探偵(佐藤流司)を使って探し出そうとするが、芳しい結果は出ない。転びそうになった彼女をドラマ青年そっくりの彼が支えたのを抱擁と勘違いした菜穂子は、兄と姉を実家に呼び家族会議を設ける。しかし、肝心なことは結局話せず終い。
 さらに悪いことに、有喜子は夫が彼女の結婚前の仕事の先輩・志津子(星由里子)とこっそり会っているのを見て、さらに煩悶を深める。

簡単に言えば、老夫婦が長年の誤解を積み重ね合って離婚の危機に陥るお話なのだが、有喜子が思い切って勝に“あなたは私が好きなのか”と訊いたことが突破口となって、問題は一気に収束していき最終的に終息するのである。
 要は、有喜子は勝が初恋の人で、志津子を出し抜く形で“最初に見合いした相手と結婚するつもり”と告げた勝と結婚した為、彼の愛情に半世紀以上に渡って自信がなかったのである。他方、勝も有喜子に惚れ込んだが、田舎者の自分など気に入られまいという劣等感を持って諦めて見合いした相手が何とその当人だったのである。
 口下手の勝も50年以上に渡って自分の心情を告げなかった、というすれ違いが織り成す紆余曲折。

昭和時代の邦画によく出て来たタイプの夫像で、こういう無骨な人物は若い人は勿論、昭和世代でも女性を中心に反発を覚える人も多いのではないかと思うが、目に見えて優しくない人物だからこそ人間ドラマを生むわけで、最初から排除してはなるまい。

チビはヒロインにとっては寂しさを埋める為に欠かせない生命であり彼女や周囲の人々を動かす。それが観客にとっては狂言回しとして理解される所以である。同時に、チビはヒロインの“幸福”の寓意にほかならない。従って、ヒロインが夫君の真情を知って幸福を得れば、必然的に幸福そのものであるチビは帰って来るのである(帰って来なければ、単なる狂言回し)。僕は最初からそのつもりで観ていた。

映画としては特段優れているとは思えないが、先述したように観ているうちに他人事には思えなくなってきて胸に迫るところがある。全般に渡るそこはかとないユーモアに笑ってしまう箇所が多いのも良い。銀婚式を迎えた方以上にお薦め(笑)。

あんなに元気そうだったのに、若い頃石原さとみに似ていた星由里子は本作を最後に亡くなりました。しかし、石原さとみが年をとっても晩年の星由里子には似ないと思う。これが顔の不思議。しかし、最後まで綺麗だったなあ。合掌。

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