映画評「ダンスウィズミー」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2019年日本映画 監督・矢口史靖
ネタバレあり

日本人のミュージカル嫌いが、近年のミュージカル映画の攻勢に影響されて、大分治って来たらしく、こういうミュージカルもどきがぼつぼつ作られている。日本のちょっとしたミュージカル映画ブームは1950年代以来だろう。この作品はそれ自体が素材になっているような気がして面白い。

お話は以下のように単純。

大企業の中でもエリート部署に引き抜かれたOL三吉彩花が、遊園地で試してみたインチキ臭い催眠術師・宝田明の催眠術に見事にかかり、音楽がかかると歌って踊ってしまうようになる。新部署への移行までの5日間を使って、借金苦で逃げ出した老催眠術師を探し出し、解いてもらうことを計画、彼の下でサクラをやっていた元助手やしろ優と協力して彼のツアーを追う旅を始めることになる。

色々な見方があるだろうが、本作は純ミュージカルではない、ミュージカルを理解させる為のメタ・ミュージカルである。(実際にできるかどうかはともかく)この映画が催眠術の機能を果たしてミュージカル嫌いの人をミュージカル好きにしようと試みる映画である。

僕は次の場面に注目した。プレゼンをしようとしたところでパソコンから音楽が流れて来ると彼女が歌い踊り出し、周囲もそれに倣って踊り出す。ところが、周囲が踊り出すのは彼女の脳内の情景であって、実際の他の社員たちは呆れて見ているのである。
 これが、彼女自身が以前に言った“突然歌い出すなんて現実味がない”という愚見に対する映画の答え、つまり、ミュージカルの情景は現実ではなく、心象風景を具現した表現なのである。ミュージカルの登場人物は実際の社会で歌っているわけでも踊っているわけでもない・・・なんてことは、まともな頭脳を持ってさえいれば解りそうなものなのだが、かなりのインテリの中にさえそういう発言をする人がいる。
 札幌の場面で、歌い出した人々は本来の服ではなく着飾った服を着、終わった途端に元の服に戻る。これも同じことである。

本作は日本におけるちょっとしたミュージカル・ブームに立脚したものであることは確かだが、日本でもヒットした「ラ・ラ・ランド」と直接的に結びつけるのは正しくないだろう。矢口史靖はやはり面白い映画を作る才人だ。

舞台で日本人が外国人(外国戯曲の登場人物)を演じても素直に見られるが、映画では見られない(という人がいる。まあ妥当な意見であろう)。日本人にとって、ミュージカルは日本人が外国人を演じる映画みたいなものであったのだ(一応過去形にしておく)。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

2020年05月16日 22:57
これはとても楽しかったです。
それと、オカピーさんのブログを読んで、ミュージカル否定派に多い偏見というか思い込みがどんなものかが頭の中で整理されました。
>ミュージカルを理解させる為のメタ・ミュージカル
といわれると、あ、そうだったんだ、と。
ロードムービーでもあって、中で歌われるのが懐メロが多かったりして、楽しい歌謡映画とでもいいますか。女優さんたちもよかったです。
オカピー
2020年05月17日 18:56
nesskoさん、こんにちは。

>ミュージカル否定派に多い偏見というか思い込みが
>どんなものかが頭の中で整理されました。

有難うございます。

>ミュージカルを理解させる為のメタ・ミュージカル

僕は社員たちが呆れた顔をしている時に即座にそう感じました。

>中で歌われるのが懐メロが多かったりして

何故か僕らの青春時代に流行った曲が多かったですね。