映画評「さよならくちびる」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2019年日本映画 監督・塩田明彦
ネタバレあり

塩田明彦は映像言語の扱いに優れた監督と思う。初めて観た「害虫」はお話には一向に惹かれないものの、ショットの扱いに舌を巻いた。内容が好かなかったので当時保存版を作らなかったが、ブルーレイレコーダーを買った後そのショットを研究すべく保存版を作った。しかし、そのブルーレイディスクは再生不可となってしまったのである(何てこった!)。

さて、この作品も、陰々滅々としてお話としてはさほど好かない。が、画面の構図と構成は実に良い。

音楽的才能のあるハル(門脇麦)がバイト先で見出した同世代の妙齢美人レオ(小松菜奈)とデュオを結成し、ストリートライブから始め現在ではインディとしてライブ活動を行っている。しかし、故あって二人は不和に陥ってい、マネージャーと言うか自称ローディーのシマ(成田凌)も持て余している。

そんな彼らが、7月14日の浜松から始まり24日の函館に至る解散ツアーを行う間に彼らの過去や関係性が浮かび上がってくるという内容。しかし、回想場面は頻繁に挿入されるわけではなく、現在の場面に重点を置いていることは、回想形式にやや批判的な立場に傾く現在の僕には好感が持てる。回想とハサミは使いよう(笑)。

ハルは告白していないが、同性愛者である。レオは異性愛者らしいが、孤独な自分に手を差し伸べてくれた彼女に同性愛者のように傾倒する・・・のだが、それを拒まれるような態度を取られたことが二人の不和の端緒だったようだ。

ちょっと面白いのは、レオはハルとシマにキスを拒まれ、ハルはレオとシマのキスを拒む、という対句的な表現で、タイトルが示すように唇に重要な意味を持たせている。だから、異様に多いハルとレオの喫煙ショットは映像言語的に唇に観客の思いを向かわせる手段と理解できるのである。ここに塩田監督ならではの優れた映像言語力が集約されていると言うべし。多分彼女らの喫煙はキスの代りなのだな、塩田監督、そうではありませんか? 

もう一点。ハルがコインランドリーの外で遊んでいる女児その名もレオに話しかけるシーンがあるが、あれは時代を超越した心境風景のような気がする。親に恵まれなかった相棒レオの過去なのではないか。少なくとも映画言語的解釈ではそうなる。女児レオの母親がコインランドリーの中でシマの顔をずっと眺めているのはどういうことだろうか? 

それにしても、シマの音楽に献身する姿は感動的。最後にハルにキスしようとするが、あれはもう二人が解散するからという思いからなのであろう。

昨日緊急事態宣言発令。彼女たちのようなアーティストや彼女たちが活動の拠点とするライブハウスが危機にある。日本国は概してかかる文化に冷たいから、クラウドファンディング等で頑張ってもらうしかないかもしれない。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント