映画評「半世界」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2019年日本映画 監督・阪本順治
ネタバレあり

1990年代辺りから暫く自分探しの映画が多く作られたが、近年は自分の居場所探しのお話が多いような気がする。最近観た作品ではアメリカ映画「レディ・バード」がそうであり、阪本順治が監督した本作がそうである。

三重県は伊勢志摩。39歳の稲垣吾郎は、祖父から継いだ備長炭作りに懸命になる余り池脇千鶴の妻や難しい年ごろ中学3年生の息子・村田雷麟への注意が行き届かない。そんな時に海外派兵から戻って来た後部下の自殺に落ち込み自衛隊を辞めた幼馴染・長谷川博己が帰郷する。人が変わったように無口だが、もう一人の同級生・渋川清彦とあの手この手で彼を慰藉する。
 炭焼きを手伝わせると長谷川は生き生きとしてくる。しかし、それも束の間、渋川の父・石橋蓮司が経営する中古屋に現れたチンピラを叩きのめすと、山を離れて漁業に活路を見出す。彼曰く、海が好きなのだ、と。
 安易な黒炭に客を奪われて苦境に追い込まれた夫君を助けようと千鶴ちゃんが同窓会に向かう振りをして営業に向かう。ところが、その晩稲垣は病魔に倒れて帰らぬ人となる。
 長谷川は渋川と24年前中学卒業の時に埋めたものを掘り出し、中身を見て昔を懐かしんだ後、“続くんだから”と埋め戻し、町を去っていく。いじめっ子を倒した雷麟君は亡父の焼き場でボクシングの練習を始める。

自分の居場所探しを一番体現しているのは長谷川で、部下の自殺に自責の念を感じて生まれた懊悩を抑えようと頼ったのが故郷である。厳密には故郷というよりそこに住む二人の悪友であろう。
 その二人のうち稲垣は父親に逆らうが為に父親の反対する備長炭作りを継ぐ。伊勢志摩の焼き場を無理やりに居場所に決めるのである。ボクサーになろうと決める息子は、自分を見てくれない父親に反感を覚えているわけだが、実は似た者同士だったことが判明し、その結果が息子の伊勢志摩ではないところに居場所を見出そうとする姿である。
 結果的に、長谷川は自分に手を差し伸べてくれた稲垣を失い、再び外の世界へ飛び出す。彼が稲垣らに向かい“お前らは(外の)世界を知らない”と言うと、稲垣は“自分達にも外とは違う世界があるのだ”と応える。これが題名“半世界”の意味であり、僕の言う居場所の意味である。

かかる純文学的な主題の扱いは良いが、稲垣を殺す(死なせる)という終盤の作劇は甘いのではないか。逃げであるような印象を覚える。息子の練習風景を捉える幕切れ場面の感覚は非常に良く、全体的に画面もしっかりしているだけに、この作劇の弱点は実に惜しい。

稲垣吾郎も長谷川博己もいつもとは少し違う雰囲気の役柄を好演している。それ以上に絶品なのは、池脇千鶴のそこはかとないおばさんぶり。

2001年、2011年、2020年。今世紀に入り、大体十年に一度、社会を変えるような大事変が起きる。

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