映画評「ビール・ストリートの恋人たち」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2018年アメリカ映画 監督バリー・ジェンキンズ
ネタバレあり

ジェームズ・ボールドウィンはリチャード・ライトと並んで黒人文学の二大巨頭ではないかと思うが、そのゴールドウィンが1970年代に発表した小説を、黒人監督としては異彩を放つバリー・ジェンキンズが映画化。

ニューヨーク。19歳の黒人少女キキ・レインが恋人スティーヴン・ジェームズと身を固めようと住居探しをしている頃、彼がプエルトリコ出身の主婦を強姦した罪で逮捕されて服役することになる。犯行現場と目撃し追いかけたという白人警官の勤務地が全然違うなど冤罪なのは明らかだが、中盤の展開で判ることには、黒人に明らかに偏見を持っている白人警官が以前彼をしょっ引き損ねた腹いせに嘘の報告をし、主婦にうその証言を強要したようなのである。
 少女の母親レジーナ・キングは見かねて、姿を消した主婦をプエルトリコに探し当てるが、説得工作に失敗する。それから数年後4歳くらいになった息子を連れてキキがジェームズに面会に行く。

実話ものであれば主婦が変心して事実を証言、彼の冤罪が晴れるという展開になるのであろうが、さすがに厳しい純文学はそんな奇跡的なハッピーエンドにはしない。本作はビター・エンドと言い切れないものの、“人生は続く”という観点から宙ぶらりんの状態で終わらせ、鑑賞者に差別とは何かを考えさせるのである。

ジェンキンズ監督は、黒人監督には珍しく、純文学監督のようなタッチを特徴としていると言って良いであろう。
 中でも対話する二人の人物の撮り方が面白い。通常の場面では、カメラはパンを時計の振り子のように使って二人の人物を交互に撮る。つまり、切り返しを使わない(しかも少しカメラを移動してまたパンを続ける、という面白いところもある)。対して、刑務所の場面では、二人の物理的な仕切りを示す為に当然切り返しになる。この差が実に効果的である。
 さらに唸らさせるのが、仕切りに相当するところにカメラを置く場面では、仕切りを意識させない、つまり二人の間に精神的な隔たりがない、という意味を成す映像言語になっているのである。この二段構えのカメラワークは近年の収穫と言って良いくらい。

例によって、60年代から70年代のポピュラー音楽に挟まれる、クラシック若しくはクラシック調の音楽にも痺れる。この監督の音楽の使い方は実に素敵だ。

南部と違い制度的に差別的な意識が共有されていないだけで、北部の警官にも人種差別をする人が少なくない、ということが色々と作品を観て来ると解ります。

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この記事へのコメント

モカ
2020年02月18日 18:55
こんにちは。

これはニューヨークが舞台なんですね。てっきりメンフィスのあのブルースのタイトルにもなっているビールストリートだと思ってました。 ( あ、すいません未見です。)

最近ボールドウィンのドキュメントもできましたね。

60年代末から70年代初め頃は日本でもボールドウィンやウィリアム・メルヴィン・ケリーやらが普通に書店に並んでいましたね。
今はどうなんでしょう。高校生や大学生がこんなの読むのかな?
ボールドウィンは「ジョバンニの部屋」を読みましたが、ほぼ忘れてしまいました。この手のではジュネのほうが読みやすいかな(訳が美文なので・・・)

音楽が良さそうですね。 近日中に鑑賞予定です。
オカピー
2020年02月18日 21:53
モカさん、こんにちは。

>てっきりメンフィスのあのブルースのタイトルにもなっている
>ビールストリートだと思ってました。

よく分りませんが、関連があるのじゃないでしょうか。
多分この作品に実際に出て来る通りの名前は違ったような気がしますよ。

>最近ボールドウィンのドキュメントもできましたね。

ありましたね。どうせ観られないと諦めていますが。

>今はどうなんでしょう。高校生や大学生がこんなの読むのかな?

文字を読む若者が減っていると言われるところに、文科省が阿呆で、大学入試から文学をなくそうと画策しているため、授業でも殆どなくなるという時代ですから、いないでしょう。文学も哲学も知らない人が、外国人と商売するのは恥ずかしいですよ。

>ボールドウィンは「ジョバンニの部屋」を読みました
>この手のではジュネのほうが読みやすいかな(訳が美文なので・・・)

ということは、同性愛ものですか?
同性愛ものは、映画より小説の方が抵抗が薄い。
モカ
2020年02月19日 14:10
こんにちは。

昨夜U-NEXTで「私はあなたのニグロではない」を見ました。
(見放題ですよ。契約して無料お試し期間に色々みるとか?)
観たいリストには入れていましたが、なかきっかけがなかったのですが、ビールストリートの原作もボールドウィンと知ってやっと見ることができました。

本編を観てタイトルの意味するところがようやく分かりました。
そういえば「もう一つの国」も読んだことを思いだしました。
(借りて読んだ本は忘れます)しかし、ボールドウィンがここまでメディアで発言していた人だとは知りませんでした。
ずっと重要人物だったのか、昨今再評価されているのかも分かりませんが。


ジュネ関連で「ファスビンダーのケレル」は最後まで見ることが出来ずに撃沈でした。 あれは苦手だわ・・・だいたいマッチョな水兵さんって苦手・・むき出しの筋肉ムキムキの二の腕も苦手・・・ジェフ・ベックならギター弾いてるし良いんですけどね。 

オカピー
2020年02月19日 21:44
モカさん、こんにちは。

>昨夜U-NEXTで「私はあなたのニグロではない」を見ました。
>(見放題ですよ。契約して無料お試し期間に色々みるとか?)

それは良かったです。
他方、うちのネット環境は複雑でして。暫くは厳しいでしょうねえ。

>「もう一つの国」

僕の中で、ボールドウィンの must read はこれです。

>「ファスビンダーのケレル」

観たような気がしましたが、IMDbに投票していないので、多分観ていないのでしょう。見なくて良さそうですね。

>むき出しの筋肉ムキムキの二の腕も苦手

僕は痩せた男ですから、違う意味で、筋肉は苦手です(笑)。