映画評「運び屋」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2018年アメリカ映画 監督クリント・イーストウッド
ネタバレあり

クリント・イーストウッドが久々に主演も兼ねた監督作品。前作「15時17分、パリ行き」はつまらなかったが、今回は傑作「グラン・トリノ」系列の保守的な老人が活躍する犯罪映画でなかなか面白い。

退役軍人イーストウッドは花を育てる商売に夢中になる余り家族を顧みず、妻ダイアン・ウィーストに離婚され、娘アリスン・イーストウッドとは絶交状態で、破産した後、孫娘タイッサ・ファーミガの結婚に際して家に寄れば追い返されるも同然の惨憺たる扱いを受ける。
 その去り際にメキシコ人に荷物を積んだ車を運転するだけで大金を得る仕事を紹介される。老人は荷物の中味など頓着せず淡々を仕事をこなすが、パトカーに止められそうになった時に荷物が大量の麻薬であることを知り、慌てて麻薬犬の鼻を麻痺させる作戦を取る。しかし、それに懲りず、大金になるので、淡々と仕事をこなし続ける。
 やがて、スケジュール通りの運搬を希望するマフィアはボスを殺して方針を変えた為に、重態に陥った前妻を見舞わなければならない彼は緊迫する場面に追い込まれ、また内通者の情報に基づきDEA(麻薬取締局)の捜査官ブラッドリー・クーパーらも迫ってくる。

というお話なのだが、犯罪映画と書いたものの、実は、主人公がこの新しい稼業をこなすうちに(遅きに失する感あるも)家族に寄り添う大切さに気付くというお話である。モーテル近くのカフェでのクーパーとの会話がこの思いの形成に大いに寄与する辺り映画としてなかなか上手い。

しかし、本作一番の貢献は老人の性格描写で、些事に拘らない昔ながらの老人ぶりが愉快。
 この性格が家族に対しては大いにマイナスになった可能性があるが、黒人夫婦に向って“ニグロ”、男みたいな女性バイカーたちに“ダイクス”と躊躇なく言うところなど実に面白い。差別意識を持って言えば大問題であるが、その意識が感じられないから言われたほうも直球的には反発できない。黒人夫婦が“今はブラックと言う”と反応すると、彼も“そうなのか”と返す。差別用語は使うが、差別主義者ではないのだ。そこはかとなく見せる性格描写が実に魅力的であるという証左になる好場面と言うべし。僕にとってこの映画は彼の性格に尽きるのである。

反面、本格的な犯罪映画でないとは雖も、マフィア側がイーストウッド老の行方を見失うのは間抜けに過ぎてシラケる。主人公がネットに翻弄される社会を批判している現在なのだから、車に盗聴装置を付けたマフィアがGPSを仕掛けない手はない。映画の平仄という意味でも疑問が残る。

イーストウッドとしては出来の悪い前作が【キネマ旬報】ベスト10に入ったのだから、ぐっとがっちり作られた本作は当然入って来るだろう。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント