映画評「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2017年アメリカ=イギリス合作映画 監督スティーヴン・スピルバーグ
ネタバレあり

レディ・プレイヤー1」はさすがに感心しなかったが、相変わらず安定した演出力を見せるスティーヴン・スピルバーグの作品である。
 「A・I」でスピルバーグはダメになったという人が結構いるが、あの作品の人間探求の試みが全く解らない人の戯言である。彼らが同作より良いと言う「アンドリューNDR114」は人間であることを至高としている誠に能天気な作品ではないか。「A・I」の個別の評価を別にしても、スピルバーグは特段ダメになっていない。
 お話がダメだとしても彼の能力の問題ではない。実際カメラワークと場面の繋ぎは相変わらず絶品。例えば、本作は大晦日に観た「バグダッド・スキャンダル」に似た内容だが、カメラの面白味が比較にならない。例えば、本作では人物の対話における切り返しが興味深い。AllcinemaでKE氏が指摘するように高さが違う切り返し(一方が立ち、一方が坐っている構図)が多いからである。ただ、スピルバーグはカット割りの正確さで見せるタイプなので、本作のようにゆっくりした移動撮影が多く長回し気味の撮り方では彼の本領は感じにくい。本作に限らず、新聞社内部の描写を長回しで撮る作家が多いようである。 

1971年。ヴェトナム戦争の泥沼化に苦しむアメリカで、戦後に端を発するヴェトナム戦争に絡むアメリカ当局に不都合な内容を記した政府報告書の一部がニューヨーク・タイムズに漏洩される。ニクソン政権は裁判所に訴え、タイムズの記事差し止めに成功する。
 他方、株の上場に踏み切ったばかりのライバル紙ワシントン・ポスト紙は、さらなる文書を得るのだが、記事にしたい現場を指揮するベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)に対し、投資者の反感を怖れる社主キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)は自社の経営を護ることと権力監視との間で揺れ動く。彼女は最終的に発表を選ぶが、やはり裁判に持ち込まれる。

民主主義が万全などと言う気は毛頭ないものの、アメリカの民主主義はさすがに本物で、最高裁は“報道が仕えるのは国民であって、政府ではない”と言って新聞社側に勝利を言い渡す。
 アメリカの文書管理は凄い。例えば、大統領がくちゃくちゃにしたメモをホワイトハウスの職員は全て拾って残すと聞く。それに反して、日本は政府に都合が悪ければ実際には重要であるかもしれない書類であっても廃棄するわ、データが残っていても公務員が容易に使えるものでなければ公文書でないなどとデタラメを吐くわ、文書管理はないようなものである。例の“桜を見る会”では同じ人を呼ばないのが前提と聞くが、それならチェックの為に一年以上書類を残す必要がある。一年未満が良いか悪いかではなく、前提とやっていることが食い違っているのが問題なのに、官房長官はその矛盾を何とも感じていないようだ。
 最高裁も政治的な案件になると判断を避けるので、国民は損失を被っている。僕は維新の会は余り好きではないが、憲法裁判所の創設では意見が一致する。現在の日本国憲法にこの条項を加えた上で、別の条項について検討するのが国民の為に一番良いと思う。

閑話休題。
 スピルバーグは、トランプが大統領になったことで、元々温めていたこの企画を早めたと言う。自分に都合の悪いことは必ず“フェイク・ニュース”と反論するような人物が大統領になれは作りたくもなる。また、社主が女性であることがワシントン・ポストの弱点と言う発言など、昨今再び盛り上がっているフェミニズムの観点を打ち出せているのも現在作られる格好の理由となっていると思う。

ニクソンが退任する原因となったウォーターゲート事件も本件に間接的に絡んでい、それが最後にちょっと出て来てニヤッとさせる。これがピンと来ないようでは本作全体も面白くあるまい。

官僚が強すぎて政策が進まない現状を憂えて内閣人事局設立に奔走した人が、モリカケ問題に際して、(官邸が強すぎて独裁的になり)完全に失敗だった、と言っていたのが印象的。結局すべてはバランスなのである。内閣人事局と小選挙区制は廃止すべし。

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