映画評「七つの会議」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2019年日本映画 監督・福澤克雄
ネタバレあり

今年二本目の池井戸潤原作の映画。最初の「空飛ぶタイヤ」の販売会社側だけをフィーチャーしたと思えば、当たらずと雖も遠からず。

大企業ゼノックスの傘下にあるチェア製造販売の中企業ケンデン(東京建電)。そこに対照的な成績を残す営業一課と営業二課がある。及川光博が課長を務める第二課は成績振るわず、毎月営業部長香川照之の叱責を食らう。成績優秀な一課にはぐうたら係長野村萬斎が居座っていて何故か左遷もされず、それどころか彼のパワハラの訴えにより若い課長片岡愛之助が人事課に左遷されられる、という謎。
 その後、一課の課長になった及川光博が、部下となった女性社員・朝倉あきと成り行きで謎を追ううちに、片岡課長の行方が杳として知れなくなったことを知る。二人が情報を提供し合ううちにさらにカスタマー室室長や経理の課長補佐が次々と謎の左遷の憂き目に遭い、前課長がコスト高の為に切ったネジ会社のネジを野村が独断で再び買い始めたことを知るに至って、野村係長とネジ会社の間に癒着があるのではないかと憶測し始める。

という辺りまでミステリーとしての展開(本作的に言えば、謎の隠蔽)ぶりがなかなか巧妙で面白い。しかるに、二人の企業内探偵にとって悪党のような位置にあると見られた野村係長が離婚した夫人吉田羊と遭うなどするうちに彼の真の姿が明らかにされる丁度真ん中辺りから先の凡その展開が読め、興味深さは減じていき、全体としての面白さで「空飛ぶタイヤ」に劣る。

それでもディテールの面白さは十分あるわけで、大企業もしくは親会社に対する中小企業の辛さ、データ偽装・隠蔽に関わる個々の立場の差が面白く描かれ、大手電機メーカー・グループに所属しマーケティングを担当していたサラリーマン時代を思い起こさせるところが多く胸に迫ることしばしば。サラリーマンはつらいのよ。企業同士の関係というものも大体あんなものではないか。ゼノックスから出向してケンデンの副社長に収まっている世良公則が“ゼノックスさん”と言うのは、不自然な感じがした。一般的にはそういうものなのかなあ? 彼が完全にケンデンの一員になっているという表現なのかもしれない。

脚本家には、ここ数年書類改竄・隠蔽が目立つ政治を風刺する意図もあったのではないかと思う。ゼノックスが政府・内閣・与党で、ケンデンが官僚と思えば、近い。「フロントランナー」を作ったアメリカでなら、現首相の退任後モリカケ問題をめぐる疑惑は実名で映画化されるに違いないが、権力に対し腰の引けている日本では無理だ。いずれにせよ、今年の労働時間データのように官僚が政策のベースとなるデータを改竄しては政府が真に国民の為になる政策をやろうとしてもできなくなるので、これは絶対許されない。

閑話休題。
 映画としては総じて役者のオーヴァーアクトが気になった。監督はTV畑の福澤克雄だが、この間の「コード・ブルー」と違って、カメラは映画のレベルに達している。

椅子の会社なのに何故“建電”?

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この記事へのコメント

浅野佑都
2019年12月16日 12:20
 >サラリーマン時代を思い起こさせるところが多く胸に迫る
僕は、「空飛ぶタイヤ」よりもこちらが気に入ったんですよ。広告畑が長かったので、プロフェッサーほど実感は無いですが、わかりますねぇ・・。

>役者のオーヴァーアクト
ベテランの香川照之はともかく、片岡愛之助と野村萬斎は、歌舞伎、狂言がルーツで、彼らは総じて時代劇はいいのですが、そのままで現代劇にゆくとオーヴァーに見えますね・・。
今はそうでもないですが、市川海老蔵なんて最初のころはひどかったですし、中村獅童なんかもそう(笑)
僕の知る限り、歌舞伎出身で現代劇ですんなりと違和感なかったのは、中村錦之助、市川雷蔵、林与一、片岡孝夫(現仁左衛門)ですかね・・。特に、錦之助は出演はわずかですが、時代物とは全く違う芝居で流石にわかってるなぁと・・。

>実名で映画化、権力に対し腰の引けている日本では無理
大したことでもないのに、匿名でしか描けない(描こうとしない)のは、日本人好みのお上に逆らわない主義の影響ですかね?・・。

僕は、今度政権交代のチャンスがあれば、絶対野党を応援しますが、その条件としては彼らに何もやってほしくはない(笑)


政権交代そのものに意味があって、官僚の「自民党ベッタリ」もなくなるので、あとは4年間鼻でもほじってくれてればいい・・。
だいたい実力も経験もない子どものような大人だった彼らが、原発問題や事業仕分けなど真面目にやりすぎたら、おかしくなるのも自明でしょう。

原発も必要悪で、医療用や工業など 、不安定な代替エネルギーでは無理なのは確かで全部なくすのは上策でないでしょうし、石炭火力発電なんか、イギリスの古臭い発電所とはCO2の発生量も違うのだから欧州に言われることはない。
GDP当たりの使用量から言えば、彼らの方がはるかに無駄に使ってるでしょうね。

野党に強いて臨むとすれば、企業寄りの現政権の姿勢を少しだけ市民にシフトすることかな・・。
あとは労働組合の候補はぜひ、3分の1以内にしてほしいですね。彼らは、変な人も多いですから(笑)
オカピー
2019年12月16日 20:57
浅野佑都さん、こんにちは。

>「空飛ぶタイヤ」よりもこちらが気に入ったんですよ。

非常に僅差ですが、僕は少し欧米的な感覚のある「空飛ぶタイヤ」を買いました。こちらは、たまたま大佛次郎「赤穂浪士」を読んでいたせいか、少し時代劇っぽく感じましたね。結構似た話ですけど(笑)。
これくらいやれば上出来と思います。


>彼らは総じて時代劇はいいのですが、そのままで現代劇にゆくと
>オーヴァーに見えますね・・。

全くその通りです。


>日本人好みのお上に逆らわない主義の影響ですかね?

僕はそう思っています。アメリカの方が訴訟大国(最近日本も影響を受けて非常にセンシティヴになっているのは認められますね)なのに、あれだけ大胆に見せますからね。


>野党に強いて臨むとすれば、企業寄りの現政権の姿勢を
>少しだけ市民にシフトすることかな・・。

他の件も概ね同意ですが、特にこの件は全くその通りと思います。例のトリクルダウンの考えは成り立たない。野党にそこを突かれると、現在の政権の伝で、“そんなことを言ったことはない”と首相は答えたように記憶しています。あれは所謂、ご飯論法でしたね。