映画評「タリーと私の秘密の時間」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2018年アメリカ映画 監督ジェースン・ライトマン
重要なネタバレあり。未見の方は注意のこと。

JUNO/ジュノ」「ヤング≒アダルト」に続く、三回目のジェースン・ライトマン監督=ディアブロ・コディ脚本コンビ作。

10歳前の子供二人を育てている母親シャーリーズ・セロンは3人目の子供を出産する。夫ロン・リヴィングストンは優しいが育児をほぼ彼女に任せきり、発達障害が疑われる(一つのことに拘ること、音に敏感であることから判じてアスペルガー障害だろう)息子の転校問題も一人で抱える彼女は天手古舞である。
 そこで出産前に義兄マーク・デュプラスに言われた夜専門の子守を雇ってみる。やって来た26歳の痩身美人マッケンジー・デイヴィス(役名タリー)は天真爛漫で、彼女の悩みを解決していく。
 ところが、ある時マッケンジーが町へ繰り出そうと誘い、その場で“もう去らなければならない”と告げる。帰宅途中眠気を抑えきれないシャーリーズは車を橋の下に転落させ重傷を負う。
 子守のおかげて疲れを取れたと思い込んでいた夫は病院で真相に気付く。観客たる我々も真相に気付く

タリーという子守の名前がヒント。シャーリーズ扮するヒロインの旧姓がタリーであったと言えば、我々が知らされる“真相”も自ずと解るであろう。この真相が最後まで観客にも解らないのは、子守が夜中に部屋の掃除やお菓子作りなどを張り切ってやってしまうからである。
 ヒロインはそれ以上疲れた体に鞭打ってそれまでしていなかった徹底した掃除などできようはずがなく、観客を含めた誰もが子守の実在を疑わない。この子守が文字通り疲れたヒロインが逃避の為に痩身美人だった若い自分を投影して生み出した分身などとは決して思わないのだ。終わってみれば、頑張り屋さんらしい彼女がどこかでさらにスイッチを入れてしまったのだと理解するしかない。

文字通り怪我の功名で夫君は自分のケアが細君に向っていなかったことに気付くのである。めでたしめでたし。

しかし、この女性は最近観た日本映画に出て来た虐待へと突き進む女性たちに比べて何と強いことか。決して自分の欲望に負けたりはしない。邦画群に出て来た虐待する母親の気持ちは解らないでもないが、大多数の母親は何とか我慢できているのである。この映画で分身タリーの言った言葉“毎日同じ事の繰り返しが楽しい”の何と素敵なことか!

彼女が直面する子育てにおける問題のリアリティーに昔を思い出す。ほぼ全ての親達がこれを経験するのだ。

ただ、映画としては、思いのほか直球である主題をファンタジー的趣向で処理し、落ちで勝負したところが弱い。趣向に溺れすぎているのだ。とは言え、頑張り過ぎて疲れた母親を直球で描写しても観る方がげんなりするかな。言うのは簡単ですね、どうもすみません。

役の為にそんなに太らなくても良いのに。

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この記事へのコメント

浅野佑都
2019年11月05日 20:00
>「毎日同じ事の繰り返しが楽しい」
大人になった自分を、若い時の自分が最大に肯定してくれる会話こそが、この映画のテーマかと思います。

女性にとって子育てとは、言葉通り自分の体を分け与えて、授かった命を守ることでしょう・・。

僕も、長男が生まれた後に妻の産後の肥立ちが悪く、映画にもあった、搾乳後に冷凍しておいた母乳を飲ませたり、少しでも安い紙オムツを買いに、遠くのロジャースまで車を走らせたりしていました。余談ですが、シャーリーズは何事もないようにやっていましたが、あの搾乳機というやつは本当に痛いらしいです(笑)

女性は、出産後にホルモンバランスの乱れから体調を崩しやすいですし、ヒロインのように、他人に頼れない真面目な性格も、却ってうつなどを発症することにも・・。

最近多い虐待や育児放棄は論外でしょうが、昔の子育てはもっといい意味でオオザッパだったのだろうと思いますね・・。
カフェインが妊娠中に母体に与える影響について知らなくとも、体に悪いものは匂いを嗅いだだけで体が受け付けないし、そもそも、人間の赤ん坊はたいてい、思っているよりも生命力が強い・・。

子育ては最初から汚くて煩わしいもの・・という認識があれば、若い頃と現状を比較して落ち込むこともなければ、自分がいかに子供の犠牲になっているか、などと被害妄想的になることもないでしょう・・。
罪を犯した母親たちも、我が子の顔を初めて見た時は泣いたでしょうに・・。

>役の為にそんなに太らなくても

役作りで18キロも増量したのが話題になりましたが、もともと、彼女は細かい演技も上手いし、車の中で背もたれを蹴飛ばす長男に文句を言うシーンなど、本当の三児の母のようでしたね・・。


シャーリーズと、彼女が生み出したメリー・ポピンズ(笑)が街へ繰り出すときに、カーステレオから流れるシンディ・ローパーの「Girls Just Want to Have Fun」に、この監督のセンスを感じますねぇ・・。
よく、50~60年代を扱った映画で、往年の大ヒット曲が使われますが、場面とシンクロしていないことも多く興ざめしますが、これはぴったりです。

オカピー
2019年11月05日 22:15
浅野佑都さん、こんにちは。

>あの搾乳機というやつは本当に痛いらしいです(笑)
そう聞きます。僕らは体験できないので解りませんね^^

>昔の子育てはもっといい意味でオオザッパだったのだろう
僕らの母親の時代はまだ大家族時代ですし(我が家は違いましたが)、人間関係がもっと単純だったでしょう。人権は大事ですが、余り窮屈になっている現在について僕は疑問に思っているんです。人権には厚いけど、他人に寛容でない現在は、一部の人を追い込む可能性が高い。

>体に悪いものは匂いを嗅いだだけで体が受け付けない
人間に限らず、生命はその点良く出来ています。

>子育ては最初から汚くて煩わしいもの・・という認識があれば、
その辺は昔の人のほうが認識していたかも。実際には、昔の方が虐待は多かったかもしれませんがね。

>本当の三児の母のようでしたね・・。
本当にうまい女優ですねえ。単に肥っただけじゃない(笑)。

>カーステレオから流れるシンディ・ローパー
ヒロインが若い時(から)シンディが好きだったのだ(そういう設定)と思いました。車から聞こえて来るのは多分全部シンディでしたもの。