映画評「女王陛下のお気に入り」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2018年アイルランド=イギリス=アメリカ合作映画 監督ヨルゴス・ランティモス
ネタバレあり

映画でよく扱われる英女王はエリザベス1世(チューダー朝)で、近年ヴィクトリア女王(ハノーヴァー朝)も出て来るようになったが、スチュワート朝最後の君主アンが主人公若しくは重要人物になる作品は珍しい。

スペイン継承戦争でフランスと戦っているイングランドは戦争を継続するか(ホイッグ党)否か(トーリー党)で意見が二分されている。アン女王(オリヴィア・コールマン)の友人で女官サラ(レイチェル・ワイズ)は継続派で、夫君マールバラ公爵が司令官として戦っている。
 そんな折家庭の事情で借金地獄に落ちていたサラの従妹アビゲイル(エマ・ストーン)が彼女を頼ってやって来る。かくして王宮の下働きに用いられた後、女王が死んで行った子供の代りとして可愛がっているウサギに好かれたり、通風を和らげることに成功した為に女王に気に入られて侍女になる。
 アンと同性愛的な関係も結んでいるサラは目障りになって来たアビゲイルを遠ざけようとするが果たせず、アビゲイルに毒を盛られてから零落する一方で、遂には横領疑惑の夫君と共にイングランド追放の憂き目に遭う。
 その結果トーリー党が優勢になってフランスとの戦いは終結を迎え、アビゲイルは女王の愛情を独り占めにする。

史実に基づき、スペイン継承戦争におけるフランスとの戦いを縦糸に、アン女王の寵愛をめぐる女の戦いを横糸にしたお話で、構図としては割合単純。序盤のうちは素直に見えたアビゲイルがサラに鍛えられたこともあって次第に打算的で権謀術数を弄する悪い女になっていく変身ぶりが見どころになろうか。
 しかるに、序盤のうちの、通風の処置もウサギの扱いも或いはしたたかな戦術だったのかもしれない。というのは彼女は出来の悪い父親のせいで厳しい少女時代を送り、そこから這い上がる為に最初からトム・リプリーやジュリアン・ソレルを思い出させる野心を持っていたとも想像されるからである。
 史実ではもっと早くサラに引き取られ、彼女の推薦ですんなり侍女になったらしいので、映画とは少し違い、横糸は映画独自のアイデアが多いと推察される。

物語自体はオーソドックスながら、監督がギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモスだから人物描写にはシニカルなところが目立ち、かなり毒がある。例えば、幕切れを見ると、ウサギを虐めるのを女王に感づかれたアビゲイルも寵愛を失った可能性があり、単純ではない。

また、室内では広角レンズを多用し、カットを切らずにぐるりとカメラを回転させるところでは画面が歪んで見にくかったりする一方で、閉塞的な感覚と粘着的なムードが生まれていて面白い。

女優三人はいずれも好演で、その中でも抜群の、アン女王を演じたオリヴィア・コールマンは映画出演時44歳。
 しかし、アビゲイルが寝室付女官になった時のアン女王は37歳、アビゲイル32歳だから実際のアンはもっと若かったし、二人の年齢差はたった5歳に過ぎない。アンは老婆にしか見えないが、子供を12人も生んで悉く死なれ肥満体で通風持ちの人生が彼女を早く老けさせたのだろう。

かのウィンストン・チャーチルはサラの直系の子孫。

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この記事へのコメント

モカ
2019年12月05日 15:01
こんにちは。

昨夜観ました。 面白いですね! 
 王室を舞台にしてタブーがないところが良いです。

結局アン女王の直系は途絶えてジョージ1世が王位につき「英国万歳!」のジョージ3世がまたややこしい人で(笑)そこから2代目くらいがヴィクトリア女王でしょうか。

どこぞの国のように直系男子になんて拘ってませんね。
プロテスタントには拘ってますけど。
何ででしょう? カトリックでは英国国教会を継げないからでしょうか? とにかく法王庁とは縁を切っておかないといけないんでしょうね。 

「英国万歳!」のときも感じたんですが、この時代の王室の取り巻きって結構チャラチャラした貴族がたくさんいますね。
 チャラい貴族がいるのはベルサイユで、英国はもうちょっと武骨なイメージがあったんですが、どちらの映画でもボロクソな描かれ方でしたね。 実際はどうだったのかは分かりませんが。

エマ・ストーンのコスプレ時代劇は初めて観ましたが、勝気なイメージ通りの役柄で違和感がなかったです。
女王役の方、頑張っておられましたね~
レイチェル・ワイズが3人のなかではちょっと損な役回りでしょうか・・・



オカピー
2019年12月05日 21:52
モカさん、こんにちは。

>王室を舞台にしてタブーがないところが良いです。
皇族が不倫のできる国ですからね。日本なら一人で買い物もできない。

>どこぞの国のように直系男子になんて拘ってませんね。
わが国の万世一系なんてどこでどうなったか解るもんかと僕は思っていますが。

>カトリックでは英国国教会を継げないからでしょうか?
英国国教会は内容はカトリックに近いのに、一応プロテスタントに入る変な宗派ですよね。ヘンリー八世のアン・ブーリンとの結婚をめぐってローマと縁を切ったわけですけど。思想的には仲良くできないでもないでしょうに。

>エマ・ストーンのコスプレ時代劇
僕は、彼女とアマンダ・セイフライドの区別がつかない(笑)。比べると似ていないのだけど。
2019年12月10日 12:58
こんにちは、ご無沙汰しております。
本作、ヨルゴス・ランティモスについては大人し目で、でもしっかり彼の毒気は入っていて…という面白さがありました。
なんといっても、女優3人の演技バトルはすさまじかったですね。男優陣が霞んでしまうほどでした。
オカピー
2019年12月10日 22:37
ここなつさん、こんにちは。
お久しぶりです。

ウェブリ―がTB機能を停止したため、結果的にご無沙汰することになりました。申し訳ありません。

>ヨルゴス・ランティモスについては大人し目で、でもしっかり彼の毒気
全くそうでしたね。

>女優3人の演技バトルはすさまじかったですね。
見応えありましたねえ。