映画評「ビブリア古書堂の事件手帖」

☆☆★(5点/10点満点中)
2018年日本映画 監督・三島有紀子
ネタバレあり

一時ほどではないにしてもTVではミステリーが人気なのに、映画では余り作られない。そんな時代にあってこんな題名を見ると食指を動かされる。僕は本好きだから余計に良い。

モラトリアムの若者・五浦大輔(野村周平)は、子供時代に祖母絹子(渡辺美佐子)にその愛蔵書である夏目漱石「それから」に触れてピンタされる。その為に彼は文だけの本が読めなくなる。
 祖母が亡くなってその本を確認すると、漱石のサインらしきものがある。確認する為に古本屋“ビブリア古書堂”を訪ねると、店主である妙齢美人篠川栞子(黒木華)は瞬時に偽物と見抜き、しかも彼がここへ来るまでの経緯も言い当てる。

こういうのはシャーロック・ホームズ・ファン(僕は必ずしもそうと言い切れないけれど)には嬉しい。彼女は五感で感じたものを瞬時に分析するホームズ的推理力があるのだ。
 彼女のこの能力はある古書盗難事件でも発揮される。ミステリーとして気に入ったのは彼女の能力が遺憾なく発揮される一連の部分のみで、“事件”そのものは全く大したことがなくつまらない。

怪我の為に松葉杖を使っている栞子は仕事のない大輔を雇う。本当の理由は、彼女が大事に保管している太宰治「晩年」の稀覯本を、彼女を階段から突き落とした男が執拗に狙っている為、一種のボディガードにしたのだ。
 その頃古いコミック本を扱う稲垣(成田凌)と親しくなり、彼も味方に付ける。にも拘わらずその後も小事件が起り続ける。大輔君は自分が預かって不甲斐なくも盗まれてしまう稀覯本が偽物と知り、栞子と喧嘩別れする。

さあこの事件の顛末はどうなるのでありましょうか、というのがとりあえず本編(事件)のお話。しかるに、寧ろ本当の眼目は栞子が早々にある程度見抜いた絹子の半世紀前の恋模様の行方と言うべきなのでありますな。以下の如し。

定食屋“ごうら屋”の妻・絹子(夏帆)はある時訪れた作家志願田中嘉雄(東出昌大)に文学指南されるうちに恋に落ち、二人で出奔する寸前までに行く。
 何故こういう話が出て来るかと言えば、二人が「それから」の世界を地で行くことになるという設定(孫の大輔という名も「それから」の主人公の名にちなむ)だからである。虚実を織り混ぜるのが原作者の狙いなのだ。「それから」を全く読んでいないらしい人の中に、それに気付かず、訳もなく貶す人(突然不倫の話になる、云々)が多いが、勉強不足も甚だしい。

田中は太宰治が好きで、二人の会話には太宰絡みが多い。漱石は現在から過去へ主人公たちを含めた我々を連れて行き、太宰は過去から現在へ戻る仕掛け(タイムマシン)となっているわけである。この辺りは本好きの僕をある程度喜ばせる要素ではあるが、やはり二つメイン・ディッシュがある作品は上手く行かないという相場を突き破ることはできていない。

特に、現在の「晩年」争奪戦に伴う主人公たちと犯人の行動は常識から外れるところが目立つ。例えば、時代が全くの現在(大輔君は1965年最初の出産をした女性の孫である)であるのは確かなので、ピンチの場面で携帯電話を使わないという手はない。そうすればピンチは違う幕切れを迎えたのではないか。

「晩年」稀覯本の「それから」でした。

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