映画評「if もしも・・・・」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1968年イギリス映画 監督リンジー・アンダースン
ネタバレあり

僕は学生運動を体験としては知り得ない遅れてきた青年であるから、この映画の革命気分が解ると言えば嘘になる。しかし、1968年という第二次大戦後の世界で革命気分が最も盛り上がった年にこの映画が発表されたことは文化史的に非常に意味のあることと言わなければならない。再鑑賞。

500年もの歴史のある全寮制パブリック・スクール(エリート男子校)。日本同様に下級生と上級生の立場がかちっと出来上がっている状態で、最上級生であろう監督生が一般の学生を規律の名目でひどく虐げている。昔から言われるように鞭打ちはサディズムの権化である。
 これらの中に3名の反骨精神いっぱいの上級生三人マルコム・マクダウェル、デーヴィッド・ウッド、リチャード・ウォーウィックがいる。彼ら特にマクダウェルがこれに怒って戦闘訓練中に牧師を撃って負傷させ、罰として倉庫の掃除を命じられる。
 ところが、彼らはこの倉庫に武器を発見、これを使ってある日反乱を起こし、屋根の上から乱射を始める。

というお話だが、これが必ずしも現実であるというわけではないという作り方である。カラーとモノクロの画面として表現することで、その可能性を暗示する。だから、最後画面に出て来る"if"はこの反乱だけを示すものと考えてはいけない。
 クロード・ルルーシュ監督「男と女」同様にカラーとモノクロの使い分けの基準がよく解らないのだが、カラーが幻想でモノクロが現実、或いはその逆という理解がある。平和なモノクロ・シーンこそ幻想であるという理解は世界で同時多発的に発生した革命的運動が現実に進行していた時代だからこそ成り立つ。

僕は左脳人間できっちり理解できる作品を評価する傾向があるが、この作品はそれに拘らなくても良いと思う。何となれば、文化グループ“怒れる若者たち”を代表するリンジー・アンダースンが文字通り“怒れる若者たち”を具現する映画を作ったと文化史的なアングルで理解すれば十分だからである。

この映画故に、スタンリー・キューブリックは「時計じかけのオレンジ」にマクダウェルを起用し、「タクシー・ドライバー」は主人公のファーストネームをこの映画の主人公の姓トラヴィスから取ったらしい。偶然かもしれないが、十五年以上後に発表される尾崎豊の「15の夜」や「卒業」の歌詞は本作と激しく共鳴し合う。その歌詞を反芻しながら見ると感動を禁じ得ない。

「男と女」は費用の問題で、当時は安かったモノクロ・フィルムを一部に使ったとも聞いた。事実かどうかは知らない。

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この記事へのコメント

浅野佑都
2019年10月21日 13:17
 ベトナム反戦を背景にアメリカで生まれたニューシネマ運動。
世界ではそれに呼応するように、古い体制に反逆の狼煙を上げる新世代の映画運動が興り、
フランスでは「ヌーベルヴァーグ」イギリスでは、労働者階級の青年の声を代弁する「フリー・シネマ」が・・。
本作は69年のカンヌのグランプリ受賞作品、審査員特別賞は「Z」、そして新人賞には「イージー・ライダー」!
映画の世界でもリボリューションの風は確かに吹き荒れていました。


>平和なモノクロ・シーンこそ幻想
この作品の主人公もビートルズ世代ですが「怒れる若者たち」の心情を通して、人間の尊厳や人権問題という重いテーマを、ポップな感じでアイロニーたっぷりにデフォルメしてみせていますね!

『いちご白書』('70)が青春映画としての色合いが強く「非暴力・無抵抗」を主張していたのに比べ、『if もしも・・・・』で描かれる反抗は徹底して、暴力によるもの。
(この作品で描かれる暴力は、30年後には「コロンバイン高校事件」のように現実のものとなってしまうのですが・・ )

この映画を初めて見た時はとても感動したのですが、それ以降に次々に良い作品に巡り合い、内容を忘れていました。
今、このレヴェルの作品を観たら決して忘れないでしょうね・・。どんな優れた作品も、受け手が正しく評価しなければその価値は埋没される。
オーディエンスも文化の担い手なんですがね・・。

 >尾崎豊の「15の夜」や「卒業」
以前、モカさんがプロフェッサーの読書の幅広さを誉めてらっしゃいましたが、僕はそれよりも、あれだけ洋楽に詳しい人が、さして充実していたとも思えぬ日本の80年代後半から90年代のポップソングに精通しておられるのが不思議といえば不思議でしたね(笑)

自慢ではないですが、中学から洋楽とユーミンにのめり込んでいた僕のJポップの知識は、80年代前半でストップしています(具体的には中森明菜までで,松田聖子で知っているのはCM で流れていた「sweet memories」くらい・・と書けば音痴ぶりがおわかりでしょう(笑)

当然、尾崎豊は名前しか知らず、ユーチューブで聴いてみましたが、彼は僕らよりも生まれが遅いので、学生運動そのものは知らなかったでしょうが、若者の心には、いつの時代にも管理する側に抵抗する“若葉”は芽生えているのでしょうね・・。
それは、たぶん、大人しい現代の日本人の心にもあるのでしょう・・。

 
 話題の映画「イエスタディ」を観てきました。
ビートルズが存在しなかった世界で、唯一、ビートルズの音楽を知る主人公が、出来心で彼らの作品を自作として次々に発表し、スターになってしまった後の顛末という物語自体は、さして目新しくはないですが、「アクロス・ザ・ユニバース」同様、その楽曲だけで十分楽しめます。

文学的な香りのする「アクロス・・」と比べて、こちらは娯楽性が全面に出ていて、脚本のリチャード・カーティスのビートルズ愛あふれるたくさんの彼らへのオマージュ、「ヤア・ヤア・ヤア」など、ビートルズ映画や彼らの記録映像で知っているシーンが忠実に再現されていて、ニヤッとすること請け合いです。

一つだけ例を挙げると、ルーフトップ・コンサートのオマージュであるホテルのライブ演奏で、主人公が「ヘルプ!」を歌うのですが、現代的なロックアレンジが主人公の「助けてほしい」という魂の叫びをよく表していて、65年にレノンが歌った時もかくや!と思わせる場面でした。

おすすめです。
モカ
2019年10月21日 17:01
こんにちは。

これってジャン・ヴィゴの「新学期操行ゼロ」へのオマージュじゃないでしょうか? 
60年代英国版の新学期操行ゼロだと思います。
ジャン・ヴィゴのほうが子供達の年齢が低い分、可愛いですけれど。

こういうのはリアルタイムに観るより何年後かに観た方が俯瞰的に観られて理解しやすいかもですね。 
公開当時の日本の女子高校生にはきつかったです。Mマクダウェルは可愛くないし(笑)
その後「時計仕掛け・・」でMマクダウェルのイメージが決定的になってしまいました。
後年、他の映画でちらっと見かけても「あっ、あいつや!」と、まるで指名手配犯を見つけたような扱いになってしまって気の毒なことです。

そういえば「アナザー カントリー」もこの路線ですね。
こちらの復讐の矛先は大英帝国でしたが、スパイになって復讐できたんでしょうかね? 
コリン・ファースのジャドが素敵でした。ジャドはスペインの市民戦争で死んじゃうんでした。

60年代は革命の時代というよりは革命が成就しなかった時代と捉えたほうがいいと思います。 思想的背景が共産主義かサマー オブ ラブのようなものしかなかったからでしょうか・・・
よく分かりませんが。



オカピー
2019年10月21日 22:49
浅野佑都さん、こんにちは。

>ニューシネマ運動。「ヌーベルヴァーグ」「フリー・シネマ」が・・。
体制というより、古い考えや権威に対する反抗だったのでしょう。僕らが映画を観始めたのはそれらが当たり前のものとして定着したか、定着しつつある時代なので、ちょっとつまらないですね。

>30年後には「コロンバイン高校事件」
現実になっては洒落にならない。映画の中だから暴力は許される。

>オーディエンスも文化の担い手なんですがね・・。
正当な理解や評価を得ずに埋もれた映画や音楽も文学もあるでしょうねえ。

>日本の80年代後半から90年代のポップソングに精通しておられる
精通なんてことはないですが、多分ジャパニーズ・ポップスが洋楽からどのような影響を受けているかということに関心があって聴いていたのだと思います。

>いつの時代にも管理する側に抵抗する“若葉”は芽生えているのでしょうね
そういうことなんでしょうね。
 本作でマルコム・マクダウェルがバイクを盗んで走り出すなんて正に「15の夜」そのものでした。

>話題の映画「イエスタディ」を観てきました。
ほーっ、そういう内容ですか。内容はともかく、やはりビートルズが聴けるのが楽しみですね。
 映画館で観るのが一番ですが、今回はWOWOWに早めに出て欲しい。さもなくば、ブルーレイを買うしかあるまい(笑)。
オカピー
2019年10月21日 23:10
モカさん、こんにちは。

>ジャン・ヴィゴの「新学期操行ゼロ」へのオマージュじゃないでしょうか?
おおっ、そうですねっ!
英仏は仲が悪いですが、そういう関係性が結構あるような気がします。

>他の映画でちらっと見かけても「あっ、あいつや!」
確かにそういう感じですよね。
 反抗とは全く関係ない「タイム・アフター・タイム」という時間SFでH・G・ウェルズを演じても、観ている方がその影を引きずったりしました。

>そういえば「アナザー カントリー」もこの路線ですね。
日本でミニシアター系が人気を博していた頃の作品でしたね。同性愛絡みが苦手なので余り憶えていないのですが。

>60年代は革命の時代というよりは革命が成就しなかった時代
僕は革命ムードの時代と言っています。本気の人は本気だったのでしょうが、ゴダールだって所謂“五月革命”を途中で「や~めた」と放り投げてしまいましたからね。ジョン・レノンは(正に五月革命を揶揄したであろう)「レボリューション」で案外その本質を見抜いていたのかも。