映画評「愛しのアイリーン」

☆☆★(5点/10点満点中)
2018年日本映画 監督・吉田恵輔
ネタバレあり

最近、吉田恵輔監督は「純喫茶磯辺」の頃に比べると作品内容がぐっとハードになってきた。本作は、新井英樹という漫画家の同名コミックの映画化である。
 かつて今村昌平が撮ったような因循で閉鎖的なコミュニティのお話にコーエン兄弟のテイストが入ったような感じ、と言えば“当たらずと雖も遠からず”か。

パチンコ屋に勤める安田顕42歳が同僚のシングルマザー河井青葉に失恋、周囲の結婚圧力に屈するように、父親の葬式当日に十代のフィリピン娘ナッツ・シトイ(役名アイリーン)を花嫁として連れて来る。古風な考えを持つ女性桜まゆみと結婚させたい因循至極な母親・木野花は外国人に強い差別意識もあって猟銃まで持ち出して脅す始末。
 そんな状況下、外国人女性に売春をさせる女衒・伊勢谷友介が言葉巧みに母親を説得、ナッツを拉致しようとするが、そこへ戻って来た安田が追いかけ、結局男を撃ち殺してしまう。
 協力して死体を埋めた二人は初めて夫婦の関係を結ぶが、彼が消えたことを不審に思う女衒仲間たちが車や壁に嫌がらせをし続けたことから次第に重苦しい気分になる。しかも、安田はナッツが死者を弔おうと勉強しに寺に通うことを邪推し、彼女に冷たい仕打ちをする。
 やがて雪の降る中彼は木に何かを刻んでいる最中に滑落して死んでしまう。数日後彼女は夫の死体を発見、益々冷たくなる義母を現場まで連れて行く。そのショックで全身不随になり口もきけなくなった義母は姥捨山の伝説に倣って一人死のうとするが、嫁の体に息子の子供がいることを知り、一緒に帰ろうとするも嫁の背中で息絶える。

山村の嫁不足の現状を切り取り、それを大いに戯画化したような内容で、日本映画としては相当極端な暴力と性の描写の氾濫と言って良い。特にフィリピン女性に対する義母と後半の夫の虐待は観ているこちらの涙を誘うようなひどいものだが、それが映画としてマイナスというわけではない。
 安田顕扮する主人公宍戸岩男の性格が非常に解りにくく、結果的に映画の性格も解りにくくピンと来ないところが多くて余り良い☆★を進呈できないのだ。特に以下のところが気になった。

射殺した女衒を二人で一致協力した結果二人の関係は愛に昇華する。ところが、そこではじけた安田が実は淫乱だった河井青葉に強引に迫る。ここがよく解らないのである。Wikipediaによると原作では、エスカレートする嫌がらせに精神的に追い詰められ、極度の不安のせいか、性欲も暴走する・・・という流れになっているようなのだが、映画はその部分が描き足りない。
 この流れの悪さから、僕は主人公の性格全体が全く解らなくなってしまい、ヒロインが可哀想なだけとしか見えずにその後の時間を過ごすことになったのである。

実際には主人公は妻に強い愛情を抱いていたようで、木に名前を幾つも刻んでいる。彼は自分の気持ちをうまく表現できないタイプで、それは母親の分析で確認されるが、もう少し性格を解りやすく描出できなかったという思いが強い。

かく舌足らずながらも、今村作品以来久しぶりに、人間の内臓を見せるような作品を観た、という感じはする。

今村昌平が姥捨山のお話「楢山節考」を作ったからという理由で彼を思い出したわけではないです。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント