映画評「審判」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1962年フランス=イタリア=西ドイツ合作映画 監督オースン・ウェルズ
ネタバレあり

高校生の時に文学全集のカフカの巻を借りてきて「変身」「審判」「城」を読んだ。編が進むに連れて段々わけが解らなくなる感じがあり、「変身」以外はお話も忘れてしまった。
 後年ビデオを買ってこの「審判」を見たが、やはり解らなかった。今回はハイビジョン版だから画面が前回と比較にならず、やっと本作の実力を感じ取れたという印象。

銀行員のK(アンソニー・パーキンズ)が官憲3人に囲まれて容疑も明かされないまま「君は逮捕された」と言われる。それでもいつもと変わらず銀行には行け、伯父の知合いである弁護士(オースン・ウェルズ)と契約するが、病人で結局役に立たない。
 アパートの隣人のダンサー(ジャンヌ・モロー)、弁護士の看護婦(ロミー・シュナイダー)、門番の妻(エルザ・マルティネリ)といった女性が絡んだ後、結局裁判で有罪となり、最初の官憲により谷状の穴に放り込まれ、ダイナマイトを投げ込まれて爆死する。

不条理と言っても悪夢と考えれば全く不思議ではないお話で、第一次大戦の頃書かれた原作と違って製作当時に舞台を移されていることと、最後の死に方が刺殺でなくなっているのが違うくらいで、原作とほぼ同じ推移となっている模様。

権力即ち国家対個人の不均衡な関係を風刺したような内容で、銀行内の整然とした様子は管理社会以上に全体主義の恐怖を呼び起こす。僕はナチスが頭を過ぎった。ユダヤ人はある日突然ユダヤ人であるというだけの理由で収容所に連れ去られ、多くはKのように殺されたのである。

同時に僕はこれは宗教のお話とも考えた。下級裁判官ではなくまともに姿を現すことのない裁判長は神様であると考えると、何となく解ったような気になりはしないだろうか? 

しかし、余りに抽象的なこのお話だけでは映画として評価しにくい。やはり「カリガリ博士」の表現主義をも思い起こさせる圧倒的な画面に見入ることにこそ本作を観る価値があるだろう。
 ハイキーでコントラストの強い画のトーンと、仰角(俯瞰もあり)のカメラとを駆使して観客に不快な圧迫感を覚えさせるところが多い。

或いは、整然としすぎた近代的な銀行や裁判所事務所の隣に、雑然とした世界が横たわっている辺りの美術の圧巻ぶり。裁判官の絵を書いている画家の大きな鳥かごのような部屋から続く場面の光と陰の洪水もフォトジェニックで実に美しい。

ジャンヌ・モロー、ロミー・シュナイダーのほか、エルザ・マルティネリ、マドレーヌ・ロバンソン(大家の女性役)、シュザンヌ・フロンという国際女優の配役が豪華。後半3人を知る人は今では少ないだろうけど。

上映時間の半分くらい流れているのではないかとさえ感じられる「アルビノーニのアダージョ」の徹底した使い方も印象的。主人公が女児たちに追いかけられるところだけ突然フリー・ジャズになるのが面白い。

今は知らないけれど、20年位前にタイに行った時、モダンで綺麗な高層ホテルから数メートル離れると汚らしい地面の上に雑草が生えていたのを思い出す。ひどく極端だった。

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この記事へのコメント

2019年09月22日 01:08
オカピーさん、TBが無くなって何だか淋しいですね。HPアドレスに『パリの灯は遠く』のカテゴリを入力しましたので、『パリの灯は遠く』①~カフカ的世界のリアリティ~ と、『パリの灯は遠く』②~カフカから喚起されたウェルズとロージー~ など、ご高覧下さればうれしいです。
さて、『審判』の恐ろしさは、現代がいつでも『審判』の世界になり得る恐ろしさだと思っています。いつなんどき理由無く裁かれるような社会は何となく年々強く感じてしまいます。現代人は常時、自覚ない閉塞感から次第に萎縮した生活を強いられている感がありますよ。
ウェルズはラストシーンに敢えて現代最大の暴力装置として「ダイナマイト」を据えたのでは?そんな気がしました。
ところで、今年度のカンヌではドロンが名誉賞を受賞しましたが、授賞式典での上映作品は『パリの灯は遠く』だったそうですよ。これはうれしかった。登壇で『ボルサリーノ』のテーマ曲、背景写真は『太陽がいっぱい』で、『地下室のメロディー』が屋外上映されたそうです。
カンヌですから、ヴィスコンティやアントニオーニは無かったようです(笑)。
では、また。
オカピー
2019年09月22日 18:42
トムさん、こんにちは。

なかなか多忙で、そちらにコメントを残せていないのですが、いつかしようと時間があくのを待っているのです。

>TBが無くなって何だか淋しいですね。
クリープを入れないコーヒーどころか、クリープを入れるコーヒーがない状態ですよ。全く腹が立つ(笑)

>いつなんどき理由無く裁かれるような社会
実は、所謂“共謀罪法”が通った時に、僕は警察が図書館に行って僕が調べられる場面を考えてしまいましたよ。
 しかも2,3か月前新聞で、鹿児島県の図書館に閲覧記録を見せろと警察が訪れたそうです。捜査令状もないので断った図書館がある一方、資料を出した図書館もあるそうです。但し、図書館にも意地があり、署名は黒く塗り消したとか。捜査理由が解らず、実に気持ち悪い話です。

>『パリの灯は遠く』①~カフカ的世界のリアリティ~
確かに『パリの灯は遠く』には「審判」に通底する不条理さがありましたね。
 本文でも書いたように、ユダヤ人がユダヤ人であるだけで死んでいったことも実に不条理で、そこに非ユダヤ人がユダヤ人に間違えられるという理不尽が加わることで、その不条理さが強調されるのでしょう。

>授賞式典での上映作品は『パリの灯は遠く』だったそうですよ。
トムさんが思い入れのある作品なので、40年ぶりくらいに見たいと思っていますが、なかなか。衛星放送に出るのが一番ですが、買うとなったら年金を貰うまで待つ必要がありますかねえ。