映画評「泳ぐひと」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1968年アメリカ映画 監督フランク・ペリー
ネタバレあり

アメリカン・ニュー・シネマ元年(本格始動)の1968年に作られた異色作で、スターシステム時代の俳優バート・ランカスターが水泳パンツ一つで出ずっぱりというのがオールド・ファンを驚かせたにちがいない。原作はジョン・チーヴァー。再鑑賞作品。

水泳パンツ一つの裸身で高台にある知人の家に現れたランカスターが、下方を見下ろして、殆ど知人で占められる上流階級の家々のプールを泳ぎ渡り、家にまで帰り着く冒険を決意する。
 こうして出会っていく旧知の人々は様々な対応を取るが、次第に彼への反感を示す反応や噛み合わない会話が多くなり、ランカスターは遂に辿り着いた家が廃墟であることに呆然とする、というお話。

中年男がパンツ一つで家々のプールを伝っていくというお話は確かに不条理であるが、不条理劇というよりは色々裏事情のある上流階級を揶揄する寓話である。

内容は人々の話から主人公は妻の資産で成り上がったものの破産し家族に離散された哀れな元富豪であることが判ってくるという仕組み。プールを伝わっていく様子が実際的時間経過であるとすれば、知人たちの話は凄いスピードで進行する主人公の成功→没落の物語であるという風にも解釈できる。二つの時間軸の物語と言えないこともないわけである。

冒険する主人公が冒険しない保身的な上流社会の人々を見下ろしていたのに最後には馬鹿にされる立場と判明したり、外部侵入者への保守種族の反撥を描いた内容とも理解でき、最初の方から寓話と思って見ると、相当面白い。

直球的に理解すれば主人公には記憶喪失・精神喪失という精神病患者の様相があると同時に、考え方によっては時間喪失というSF的恐怖を伴い、ゾッとさせられるところがある。
 つまり、主人公がまともな精神を持っていると仮定すれば、最後に荒廃した自宅を見出すランカスターは、「猿の惑星」(1968年)で自由の女神を見出すチャールトン・ヘストンの、謂わばリフレインである。

プールは上流階級の象徴だねえ。前年の「卒業」にも出て来たねえ。

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この記事へのコメント

モカ
2019年08月28日 13:48
こんにちは。

これは面白かったです。
 
チーヴァーの本も最近村上訳が出たので読みました。
映画は憶えている限りではほぼ原作通りです。

 この映画に出てくるプールは「卒業」のプールより大きくて殺伐とした雰囲気があって、より病んでいるというか、まだ1960年代なのに「資本主義の行きつく果て」感が出ていて、そういう意味ではSF的ともとれますね。
屋敷から屋敷に走っていくのも道路じゃなくて野原とか雑木林とか、開拓時代の景色っぽかったような記憶があります。
その割に公共プールがあって、そこには人がいっぱいいて、というあたりも不思議な雰囲気がしました。 
これは読むより映像でみたほうが面白いです。
オカピー
2019年08月28日 22:33
モカさん、こんにちは。

>チーヴァーの本も最近村上訳が出たので読みました。

あらら。村上氏はこれにも手を出していましたか。彼の好きそうな時代の小説ですね。


>「資本主義の行きつく果て」感が出ていて、
>そういう意味ではSF的ともとれますね。
>屋敷から屋敷に走っていくのも道路じゃなくて野原とか雑木林とか、
>開拓時代の景色っぽかったような記憶があります。

彼がそうした雑木林から突然自動車が間断なく通り過ぎる道路に出る場面は、原始時代から突然現代もしくは未来にタイム・スリップするような印象であり、そういう意味では三つ目の時間感覚もあるように思いますね。
モカ
2019年08月29日 11:34
こんにちは。

すっかり忘れていましたが、この映画は1,2年前にCSのザ・シネマの町山智浩セレクションで観たんでした。

youtubeでその時の前説と後説は観られます。「なるほど、そういう意味だったのか~」と感心していたのに、忘れてました。
お時間あればチェックしてみてください。

解説を聞いたらもう一回観たくなりましたが、どうも消去してしまったようです。残念・・・



オカピー
2019年08月29日 17:27
モカさん、こんにちは。

>ザ・シネマの町山智浩セレクションで観たんでした。
>youtubeでその時の前説と後説は観られます。

図書館に明日返す本も昨日読み終え、時間が出来たので、観てみました。

ナルシッソスの部分はしかと気づかず“なるほど”と思いましたが、“見下ろす立場から馬鹿にされる立場へ”という僕の主人公に対する感想もまんざら外れてはいなかったようです(笑)。

主人公の職業は解説を見て初めて解りました。映画だけでは勿論無理です。

しかし、実物以外に殆ど何の材料もない割に、町山解説と重なるところを導き出したわが映画評に、結構満足(笑)。
「卒業」まで引き合いに出されるとは。
モカ
2019年08月29日 20:32
こんばんは。

>しかし、実物以外に殆ど何の材料もない割に、町山解説と重なるところを導き出したわが映画評に、結構満足(笑)。
「卒業」まで引き合いに出されるとは。

 そうなんですよ! さすがです! パチパチ!
 私なんか、正解見てから受けた追試でまた落ちた状態で情けない・・・

 チーヴァーはギリシャ神話が好きらしいです。
 しかし、ナルキッソスは水に映った我が姿に恋をするからって、そこから海パン一丁でプール巡りをさせるまで話を飛躍されても解る訳ないですよね。
 
 
  
オカピー
2019年08月29日 22:49
モカさん、こんにちは。

恐れ入ります。
こういう作品は、意外と論理的に見られるのが僕の脳の構造に合っていたのかもしれませんねえ。

>ナルキッソス
解るわけないです^^;