映画評「花筐/HANAGATAMI」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2017年日本映画 監督・大林宣彦
ネタバレあり

大林宣彦監督の“戦争三部作”の最終作。原作は檀一雄の「花筐」であるが、驚いたことに、オリジナルの脚本自体はデビュー作「HOUSE/ハウス」より以前に書かれていた。この作品から始まれば、大林監督はファンタジーではなく幻想映画の監督と言われることになったのではないか。

開戦前夜の佐賀県唐津。アムステルダムにいる両親から離れ叔母・圭子(常盤貴子)の家に身を寄せ、唐津浜大学予科に通う榊山(窪塚俊介)は、肉体派で美男の同級生・鵜飼(満島真之介)と、病弱で斜に構えた吉良(長塚圭史)に憧憬する。喘息持ちの剽軽者・阿蘇(柄本時生)とも親しくなる。
 その家には肺病病みの従妹・美那(矢作穂香)も暮らしているが、彼女はあきね(山崎紘菜)と千歳(門脇麦)という友達がいる。それぞれ鵜飼と吉良の従妹である。
 六人は友情や異性への慕情を育む。しかし、戦局が近づき、憲兵の監視が厳しくなり、英米文学講師(村田雄浩)が懲罰的に出征させられるなど、死への重苦しい予感が若者たちの精神に影響を与えていく。

非常に観念的な物語であるから設定以外の部分はお話として書きにくい。映像は物凄い勢いで奔流する。とても癌死を宣告された八十歳近い(公開時79歳)人の作品とは思えず、非常に若々しい。

今回は赤という色が寓意的に使われる。肺病を病み近い死を免れない美那の喀血というイメージは、兵士の戦死へと繋げられ、死の寓意である。女性たちが少年たちのはちまきに口紅を移すのも、千歳の破瓜も、生と関連付けられる形での死のイメージである。それを男女の対照で示したところが文学的に鮮やか至極だ。

そうして大胆に構成される場面群は多く幻想的である。「野のなななのか」同様にフェデリコ・フェリーニや寺山修司を彷彿とする。
 場面や画面の転換はワイプ(特に前半に多い)やオーヴァーラップ(後半に多い)、カットインなどで激しく行われるが、その強引とまで言って良い手法や表現は前衛的と言えると同時に古典的。彼の手法はデビュー作から既に古い前衛映画の表現に近いのである。あからさまな合成や貧弱なCGは観客を虚構に投げ込む手段であろう。

以前述べたように、そうした技法はノスタルジーの表現に必要であり、ノスタルジーは“昔を忘れない”という意志に通ずる。良いも悪いも過去の出来事と向き合って、その反省を現在に生かすということである。

現実と虚構、舞台と映画、現在と過去とが混然一体となって筆舌に尽くしがたい迫力を感じさせた「この空の花 長岡花火物語」ほど圧倒されないが、純粋映画体験としては相当凄い。作者自身のパワーはまるで衰えていない。

文学ファンとしては、フランスの古典「ポールとヴィルジニー」、(「野のなななのか」に続いて)中原中也、能の「花筐」が引用されているのが嬉しい。

幾時代かがありまして 茶色い戦争ありました

この記事へのコメント

モカ
2019年08月19日 21:07
こんばんは。

「ポールとヴィルジニー」!

半世紀以上一度も思いだしたこともなかったタイトルですが、忘却の彼方から蘇ってきました。 表紙に描かれた海辺で佇む少年少女・・・ わら半紙のような紙の粗末な本でした。
子供の頃は翻訳本を子供用にリライトしたものがたくさん出ていて、今から思えば、「こんなものまで」というようなものがありました。
母が亡くなって実家の片づけをしたら、子供の頃読んだ本が出てきまして、処分しようかとも思いましたが、親がせっかく保存しておいてくれた本だし、私自身も懐かしくて持って帰ってきました。(結構邪魔にはなります)
でもそこにこの本はなかったのですっかり忘れていました。

これは ”戦争3部作” を観ないといけませんね。

    落下傘奴のノスタルジアと
    ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん
オカピー
2019年08月20日 19:12
モカさん、こんにちは。

>子供の頃は翻訳本を子供用にリライトしたものがたくさん出ていて

僕も中一くらいまで読んだのは大半がこの類でしたよ。「白鯨」「春の嵐」「若きウェルテルの悩み」「即興詩人」・・・
 大学生から大人になって読み直したら結構イメージの変わるものもありまして、「白鯨」なんて本筋より衒学的な情報の方が多いくらいでびっくり(笑)。


>母が亡くなって実家の片づけをしたら、子供の頃読んだ本が出てきまし
>て、処分しようかとも思いましたが、親がせっかく保存しておいてくれた
>本だし、私自身も懐かしくて持って帰ってきました。

僕も親に買ってもらった本や、親が保管してくれた本は処分せずに持っています。先年親が物置に入れていた本をごっそり自宅まで持ってきました。大半は少年時代の想い出のつまったものです。それらを眺めていますと、タイムスリップするような気持ちになります。