映画評「影の軍隊」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1969年フランス=イタリア合作映画 監督ジャン=ピエール・メルヴィル
ネタバレあり

個人的に、ジャン=ピエール・メルヴィルの最高傑作はデビュー作「海の沈黙」(1947年)と思い、秀作という以上に好きな作品は「サムライ」(1967年)である。本作は知名度こそ「サムライ」「仁義」(1970年)に劣るが、出来栄えは優るとも劣らない。多分3回目の鑑賞と思う。

内容は正に「海の沈黙」と「サムライ」とを併せた感じで、舞台は1942年ナチスに占領されたフランス。哲学者ポール・ムーリス、工学博士リノ・ヴァンチュラをNo.1、No.2とするレジスタンス組織のお話で、序盤のほうでヴァンチュラが逮捕され収容所に投げ込まれるが、辛うじて抜け出る。彼は仲間と裏切者を粛清し、潜水艦でボスと拠点のある英国に赴き、飛行機で帰国する。再び収容所へ送り込まれると、女闘士シモーヌ・シニョレらの活躍で処刑場の壁を乗り越えて脱獄する。しかし、一番信用していた彼女が逮捕され、娘の存在を人質に解放される。レジスタンス活動継続の為に彼女を“泣いて馬謖を斬る”の精神で殺す。ムーリスは彼女も殺されることを望んでいるだろうと忖度する。

描写自体は彼女の殺害が最後であるが、彼らは結局次々と倒れていくことになる、というナラタージュが続く。

「海の沈黙」はフランス人家族の家に駐在するナチスの静かな軍人が主人公で、徹底して即実的に主人公の感情を綴る、文字通り静謐な作品だが、本作の立場はまるで逆のレジスタンスが主役であり、また心理的なサスペンスも豊富にあるという違いはあるものの、ナチス・ドイツ占領下のフランスという共通性はどうしても無視できない。静かな主人公という意味で「サムライ」は「海の沈黙」に近いが娯楽性で優る為、本作がこの二作品の併せたような印象を覚える次第である。内容の差こそあれ、メルヴィルの即実的なタッチが最も生きているのがこの三作品と言って良いと思う。

主人公が処刑場から救出される場面におけるプロセスがよく解らないのが問題という意見を読んだ。ハリウッド映画であれば文句なしにその通りと賛同したいが、レジスタンスを行う者たちの心情にアプローチするのを眼目とする本作のような作品において、作品の娯楽的見地の面白味を左右するアクション描写に曖昧さがあっても大きな瑕疵にならないと考える。映画を観終えた後に実際に脳裏に残るのは、シモーヌ・シニョレの暗殺場面を筆頭とするメルヴィルによる重く厳しいタッチであって、娯楽的な面白味ではない。

「サムライ」「リスボン特急」と本作、幕切れが非常に似ているのだ。

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この記事へのコメント

2019年07月13日 10:20
オカピーさん、こんにちは。

>シモーヌ・シニョレの暗殺場面を筆頭・・・
全く私も同じ印象でしたよ。
これらは、パリ占領時代の実際だったように思います。
クレマンやロージーなんかもそう思うんですけれど、こんなシーンは、実際の戦争体験がなければ表現できないと思います。ヴィスコンティもイタリアのレジスタンスの一員で終戦を迎えなければ処刑される予定だったと聞きます。

映像の迫力は、やはり監督を始めスタッフ、キャストの経験がものをいうのかなあ。
それにしても、シモーヌ・シニョレの暗殺シーンは、アンリ・ドコアンの「女猫」のラスト・シーンにそっくりだったなあ。メルヴィルとドコアンはわりと仲良しだったようですし・・・案外、作風が似ていたと私は思っています。

そして、本当に「海の沈黙」は素晴らしかったですね。
こちらトムの読書メーターです。 → https://bookmeter.com/books/492642

では、また。


オカピー
2019年07月13日 20:59
トムさん、こんにちは。

>こんなシーンは、実際の戦争体験がなければ表現できない

迫力と重厚さのある、こういう映画を観てしまうと、最近の映画は見る気にならんですね。


>シモーヌ・シニョレの暗殺シーンは、
>アンリ・ドコアンの「女猫」のラスト・シーンにそっくり

「女猫」は比較的最近観たのですが、すっかり忘れています。僕の場合はとにかく本数をこなしすぎなんでしょう。


>本当に「海の沈黙」は素晴らしかったですね。

映画は勿論、後から読んだ原作も素晴らしかった。どちらも本物の芸術です。


>こちらトムの読書メーターです。 

ハンドルネームが統一されていてわかりやすい。アラン・ドランの写真を使っているのもトムさんらしい(笑)