映画評「累ーかさねー」

☆☆★(5点/10点満点中)
2018年日本映画 監督・佐藤祐市
ネタバレあり

松浦だるまという漫画家のコミックの映画化であるそうだが、作者はちょっとした文芸ファンのようですな。「累」というのは実は日本の怪談の定番で、本作とは直接関係はないものの、明らかに関連性はある。関連性に触れる前に少し梗概をば。

12年前に亡くなった名女優(檀れい)の娘・淵累(芳根京子)は演劇に憧れる少女であるが、顔に大きな傷がある為にその夢を叶えられそうもない。
 彼女は、母親の13回忌に現れた演劇関係者の羽生田(浅野忠信)に誘われ、芝居を観に行き、スランプ実は昏睡する病気を持つ若手女優・丹沢ニナ(土屋太鳳)の代りに、新進気鋭の烏合(横山裕)の演出するチェーホフ「かもめ」のヒロイン役のオーディションを受けるよう言われる。彼女が母親から譲り受けた不思議な口紅を持っているからで、その口紅で塗った唇で相手と接吻すると顔が入れ替わるのだ。しかし、タイムリミットがあり12時間で元の顔に戻る。この設定が後段のサスペンスに生かされる
 かくしてニナの顔をした累がその演技力で台頭していく。家でくすぶるニナは嫉妬し、やがてワイルド「サロメ」の初日に累が恥をかくよう作戦を立てる。しかし、その作戦に気付いていた累は遂に大舞台で成功を収める。

「累」は400年以上前から知られる怪談話で、醜い故に父親に殺される少女に呪われて彼女そっくりに生まれた悲劇のヒロイン累を主人公にした作品は分野を超えて色々作られ、“累もの”と呼ばれる。中でも有名なのが三遊亭円朝の講談「怪談累ヶ淵」である。どうしてヒロインの名前が淵累なのか解るでありましょう。僕がざっと調べた範囲ではこの古典に触れる人はいなかった。

女優に憧れる少女を「かもめ」のニーナにダブらせ、もう一人のヒロインの名前に使っている。そして、執念となった願望を実行する為には何でもする累をサロメに累(かさね)る。

女優の仮面性という問題はイングマル・ベルイマン「ペルソナ」でも扱われ、楳図かずおばりの恐怖性がなければ薬師丸ひろ子が新進女優を演じた「Wの悲劇」を思い出させるところもある。

という具合に、本歌取りをしたり、ダブらせたり、創意工夫は認められる。のではあるが、二人のヒロインの性格が互いに揺らいでいる為に、最終的に累の我執(への恐怖)に収斂していく終盤まで、作品の狙いが解りにくい。誰かを怖がらせようという狙いは序盤から感じられるのだが、累の執念で観客を怖がらせる狙いは「サロメ」の舞台まで解らず、やや遅いと思われる。狙いを掴んで映画を評価する立場では余り高く買えないわけである。

太鳳ちゃん、30年後に薬師丸ひろ子のようになっていられるか?

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