映画評「ミッドナイト・エクスプレス」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1978年イギリス=アメリカ合作映画 監督アラン・パーカー
ネタバレあり

もう40年も前かあ。

40年前に非常に話題になったアラン・パーカー監督の秀作で、トルコが舞台のトルコに都合の悪い実話ものにつき、トルコ大使館から日本政府に上映を中止するよう申し入れがあったと記憶する。後年“トルコ風呂”の呼称では素直に言い分(言い出したのは個人)を聞く我が国もこれに関しては特段動かず、僕らはそのまま観ることが出来た。恐らく彼らはこの作品を実際に観てクレームを付けたのだと思う(アメリカ映画「不屈の男 アンブロークン」は観てもいない一部不届きな自国民(日本人)に邪魔されて多くの映画ファンが悔しい思いをしたのとは対照的であると特記しておきたい。最初の予定通りに大手が大々的に公開していたら、感激した日本人が多かっただろうにと残念に思う)。

1970年ジャニス・ジャプリンが亡くなった頃、アメリカの青年ビリー・ヘイズ(ブラッド・デーヴィス)がハシシ2kgを持ち出そうとして発見され、裁判の結果、4年の刑期を食らうが、刑期もさることながら看守長(ポール・L・スミス)や刑務所内の環境などがひどくてうんざりさせられる。麻薬中毒の英国人マックス(ジョン・ハート)やエリックなどと親しくなり、残り53日で刑期満了というところで所持ではなく密輸のかどで裁判見直しということになり、結果30年の刑を言い渡される。怒りと絶望に苛まれる彼は看守長に賄賂を渡して脱獄のチャンスのある病院に送って貰おうとするが、意地の悪い看守長はもっとひどい目に遭わせようとする。抵抗した結果相手は事故死し、その服を着込んで歩いていると勘違いして鍵を渡しくくれる者あり、遂にミッドナイト・エクスプレス(脱獄)に成功する。

最近の日本人にはこの手の主人公を自業自得と言う方も少なくないのだが、しかし、罪に対する罰の大きさや環境の悪さを考えればとても自業自得とは言えない。
 彼にとって不運だったことが二つある。一つはハイジャック等が多発して検査が強化されていたこと、一つは麻薬大国と言われたトルコが麻薬の取り締まりを厳しくかつ激しくしたこと。

考えてみれば彼が脱獄にして3年もしないうちにこの作品は作られたわけで、今から思うと“際物”(事件直後に作られるお芝居や小説)だったのだなあ。

映画としては彼が捕まる前から淀んだ空気でむせるようなムードが濃厚で、それが投獄されてから筆舌しがたい窒息感といったものが出て来、文字通り胸が苦しくなりそうな気分になる。アメリカでは「ショーシャンクの空に」の爽快な作りが高く評価されるが、脱獄をテーマにした映画なら最後の最後を別にすると全く爽快感のないこちらを推す。

具体的には、投獄前からの恋人(アイリーン・ミラクル)が訪れて半ば朦朧としたビリーが自慰をする場面が凄い。美しいまでに壮絶なシーンと言って良いのではないか。この作品の白眉で、彼がマックスを密告したトルコ人を痛めつける場面がそれに続く。

監督のアラン・パーカーばかり注目されたが、脚本は後に台頭するオリヴァー・ストーン。

パーカーやストーンは「アンブロークン」のアンジェリーナ・ジョリー同様に舞台となる国を悪く言う為に作品を作ったわけではない。一人の男の自由への希望の強さを表現したかっただけなのだ。悲しいことに、全体主義者にはそれが解らない。

日本は保守化ではなく全体主義化している。真の保守はゆっくりとした変化は認めるリベラルなのだから保守化は悪くない。日本で騒がれている“保守化”は実際には全体主義化。現政権支持者は、彼らが大嫌いな中国になりたいのである。自分たちは政権寄りだから言論弾圧があっても全体主義国になっても大丈夫と言うだろうが、そんなことはない。かつて治安維持法は少数とは言え右翼も取り締まった。

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この記事へのコメント

モカ
2019年06月06日 22:45
こんばんは。これはVHS時代に観ました。詳細は憶えていませんが、あの刑務所? 監獄? 牢屋?なんと呼ぶのか分かりませんが、前近代的な牢屋が恐ろしかったです。牢屋守?看守?のゴツイおっさんも怖かった! 20世紀にこんな世界があるとはびっくりしました。
村上春樹の「雨天炎天」に「トルコもミッドナイトエクスプレス的イメージを払拭したければ・・・云々」とあったのを思い出しました。
牢屋が怖かったのと、ラストの解放された主人公の後ろ姿が印象的でした。
私、アラン・パーカーの「ザ・コミットメンツ」が大好きなんですが、こちらで取り上げておられますか? 
そういえば、最近「小さな恋のメロディー」を初めて観ました。公開時に中学生くらいなら観てたかもしれませんが、「小さな恋」なんてみてられないお年頃になってたもんで・・・タイトルだけで素通りしてましたが、いやぁ、なかなか面白かったです。冒頭のビージーズのインザモーニングで「この映画の曲だったんだ!」と遅まきにもほどがありますが、びっくりしました。
(私、ニーナ・シモンが好きなんですが、この曲とか to love somebodyとか、カバーしてました)
オカピー
2019年06月07日 20:05
モカさん、こんにちは。

僕はトルコ大使館の文句など新聞でも話題になっていましたし、映画館で観ました。凄かったですねえ。
 アジアには今でもこういうことが起こりそうなところが多くて、うっかり旅行などできない感じ。(アジアではないですが)オーストラリアで日本人が麻薬で逮捕されたのも冤罪くさいし、中国で逮捕されたら下手したら死刑。タイやフィリピンは他人から預けられた荷物で逮捕されて服役した人々もいますね。基本的に海外旅行はもうしないことにしましたけれど。

>村上春樹
へえ、そんなことを書かれていますか。
現在トルコは逆行していまして、再び古臭い国に戻ろうとしていますが、そんな大統領の作った新憲法を国民が認めてしまうのだから、どうにもならない感じが致します。

>「ザ・コミットメンツ」
四半世紀くらい前に自分用に映画評を書いていますが、残念ながらブログには挙げていないですね。良い作品でした。
 古い記録を探し、出てくれば紹介できるかもしれませんが、大したこと書いていないと思います。

>「小さな恋のメロディー」
「若葉のころ」「メロディー・フェア」「イン・ザ・モーニング」。ディスコに変わる前のビー・ジーズは素敵でした。楽曲を前に出してイメージ映像にするようなことが流行った時代でしたね。ほぼ半世紀前。気持ちはいつまでも高校生の僕も年をとるわけです。

>ニーナ・シモン
事実上名前しか知らなかったのですが、YouTubeで聴いてみました。黒人にしか表現できないような厚みのあるヴォーカルですね。
モカ
2019年06月08日 21:53
こんばんは。
<1970年ジャニス・ジャプリンが亡くなった頃> これは映画にそんな表現がありました? それとも「ジャニス・ジョプリンが亡くなった」は1970にかかる枕詞のような物ですか? 今日の新聞でドクタージョンの死亡記事をみて、1970年の日本の新聞にジャニスやジミヘンの死亡記事って載ってたのかなぁ、とふと思いました。
ビートルズがお好きならニーナシモンの「here comes the sun」も聞いてみてください。ご存じかもしれませんが、「ミシェル」の i love you i love you ilo~ve you
はニーナの i put a spell on you にヒントを得てるらしいです。
オカピー
2019年06月08日 22:50
モカさん、こんにちは。

>ジャニス・ジョプリン
主人公が捕まる前に列車だかバスの中で英字新聞を読んでいた彼女が「ジャニスが死んだんですって」と言い、新聞の記事も写されます。その反対側にニクソン大統領の対テロ政策(或いは麻薬対策、早くもどちらか忘れました)の要望が書いてあり、これが結果的に主人公にとって不運になるという流れです。

>ドクター・ジョン
割合好きで、名作と言われるCDを二枚持っています。

>1970年の日本の新聞に
どうでしたかねえ。

>「ミシェル」
今聴きましたが、なるほどI love youを繰り返すところがありますね。
I put a spell on youはオリジナルのスクリーミン・ジェイ・ホーキンズやクリーデンス・クリアウォーター・リバイバル(CCR)のバージョンをよく聴いていましたが、これもまた素敵です。

>Here comes the sun
何かの映画で部分的に聞いたことがあるような気がします。
ジャンルを定めがたく、病みつきになるような魅力がありますね。

そう言えば、アレサ・フランクリンが亡くなった時の報道で、ポール・マッカートニーはLet It Beを彼女に歌って貰いたくて作ったと書いてありました。実際録音は彼女のほうが古いそうですね。
モカ
2019年06月09日 14:36
こんにちは。 どうでもいいようなコメントに丁寧にレスポンスいていただきありがとうございます。 死亡記事の載った新聞の場面があったんですね。牢屋と牢屋番のトラウマで記憶が飛んでしまってますね。ニーナシモンは日本ではずっと不遇をかこっていますね。ジャンル分けできない人なのでレコード屋さんでも仕方なくジャズに振り分けられていて、昔の親爺ジャズ評論家からはぼろくそに言われたりしてましたもん。アレサは好きでも嫌いでもないです。多分もうちょっと earthy なのが好みなんですね。だいぶ前ですが、デビッドリンチの何とかエンパイアって映画のエンディングにニーナのシナーマンという曲が使われているというので、若い人たちがニーナシモンって誰? その曲はどのCDに入ってるの?と騒いでましたね。(当時はdiscogsってなかったのかな・・・)エンディングだけ観たくてDVDを借りてきましたよ。「アサシン」は使い方に説得力がないから、ニーナシモンに失礼だなと思いました。「ビフォア サンセット」のラストはジュリーデルピーがイーサンホークを相手にニーナの真似をしてみせて、選曲も状況にあってて洒落ててよかったですね。ちゃんとリスペクトしてるかどうかは観たらすぐわかります。

オカピー
2019年06月09日 20:17
モカさん、こんにちは。

>ニーナシモンは日本ではずっと不遇
そうでしょうねえ。
洋楽なら何でも聴いてきた(最近のは別)僕がよく知らないわけですからね(笑)

>ジャンル分けできない人
ヴォーカル自体はジャズ系とは言えないにしても、バックの音楽が時にジャズ的であったり、本当にジャンル分けできない。

>多分もうちょっと earthy
土臭い感じはブルース系に近いと言えますが、ソウルの感じもあります。

>何とかエンパイア、「アサシン」「ビフォア サンセット」
さすがによく研究されていますね。
僕は、アレサ・フランクリンならもう少し解るのですが。


十瑠
2019年06月11日 15:48
これは多分ビデオで観た作品ですが、仰る通り、息苦しくなるような臨場感にびっくりしましたね。再見したいけど何が何でもというには、若干苦さがあるので未だに放置プレイです。
エピローグで、この事件をきっかけにトルコと米国で囚人の交換がなされた・・・なんて事が字幕で語られてなかったでしたっけ?
同じ名前のピットさんに似てると思ってましたが、こちらは41歳で亡くなりましたね。惜しいことです。
オカピー
2019年06月11日 21:43
十瑠さん、こんにちは。

>再見したいけど
そうそう、僕も何年も前から見よう見ようと思いつつ回避することの繰り返し。そのお気持ち、よ~く解ります。

>エピローグ
“1975年にギリシャを経て無事帰国した”というコメントはありましたが、囚人の交換云々はありませんでした。

>ピットさん
僕は、クリストファー・ジョーンズを思い出します。どちらもジェームズ・ディーンの再来とか言われました。
ブラッド・デイヴィスは若くして亡くなりました。原因を調べたら自殺のようですね。残念。

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    Excerpt: トルコのイスタンブール空港でアメリカへ帰国しようとした青年ビリーが麻薬の不法所持で逮捕され投獄されてしまう…。 極限状態での人間の尊厳と自由を問う社会派ヒューマンドラマの傑作。 Weblog: 象のロケット racked: 2019-06-07 09:14