映画評「エヴァ」

☆☆(4点/10点満点中)
2017年フランス=ベルギー合作映画 監督ブノワ・ジャコー
ネタバレあり

イザベル・ユペールが主演なので観てみたが、失望した。ブノワ・ジャコーの作品で面白いものに当たった例(ためし)がない。
 どこかで触れたお話と思いつつ結局しかと掴めなかったのだが、IMDbで原作がジェイムズ・ハドリー・チェイスと知って「エヴァの匂い」(1962年)の同一原作の再映画化と気づいた。しかし、同じようであっても同じ原作とは思えなかった。

フランスで余生を過ごしている英国の老作家が介護の青年ベルトラン(キャスパー・ウリエル)の目の前で急死する。老作家は同性愛者かもしれないが、それはどうでも良い。老人は「合言葉」という戯曲を残す。
 ベルトランはパソコンを川に捨て原稿を自分のものとして発表、成功を収め、出版社から次の作品を求められる。しかし、他人の作品で成功した人間が次の作品を容易に書けるわけもなく、作品を書く為に婚約者カトリーヌ(ジュリア・ロワ)の両親の別荘を訪れた時、勝手に入り込んでいた中年娼婦エヴァ(イザベル・ユペール)を発見して彼女と縁ができる。
 彼女との経験を作品化しようとするが、それ以上に彼女にのめり込む感じになる。彼はかの別荘でエヴァとカトリーヌを鉢合わせさせる。カトリーヌは怒って踵を返して山道に車を飛ばし、事故死(?)してしまう。夫が刑務所から出所するとエヴァはベルトランを見限り、青年は文字通り彷徨するしかない。

ミステリー作家チェースの映画化と言ってもそのままというわけではない。そのままでなくても勿論良いが、作品の狙いが一向に解らないのは困る。序盤から中盤にかけては作品執筆に難儀する主人公がエヴァとの体験を通して自作を書くというお話かと思っていると、終盤に至って執筆はお話のきっかけに過ぎず彼が正体不明の中年娼婦に溺れていくという話として収斂していく感じになる。

しかし、「エヴァの匂い」に比べるとヒロインは悪女という印象が薄く、主人公が勝手にこけていく物語にしか見えず、面白味が薄い。

どの場面の見せ方も字足らず・舌足らずの感じが強く、カトリーヌが死んだのかどうかも定かではないし、事故なのか自殺なのかも曖昧。老作家と主人公の関係にしてもよく解らない。主人公は職業として介護をしていたのか、たまたま男色趣味の老作家に拾われたのか(多分こちら)、元々作家願望だったのか等疑問を抱いているうちに次の場面でまた新たな疑問が生れ、その繰り返しを見続けていくうちに僕は途方に暮れるのである。

群馬県に原作を読める図書館はない。近年図書館は大衆小説を大量に購入しているが、かつてはそうでなかったことがよく解ります。

この記事へのコメント

モカ
2019年06月26日 14:22
こんにちは。原作は映画とタイアップ?したのか創元推理文庫から出てますよ。
「悪女イヴ」タイトルが昔と違いますか? こちらの図書館検索したらありました。
悪女といえば昔、カトリーヌ・アルレーは結構読みました。「わらの女」とか救いがないんですが、映画ではヒロインが救われてましたね。あれはいかんです。
オカピー
2019年06月26日 19:40
モカさん、こんにちは。

>図書館検察
ハドリー・チェイス或いはハドリー・チェースで検索しても、群馬県にあるのは県立の「ミス・ブランディッシの蘭」(有名で数回の映画化あり)と「カメラマンケイド」の二作品のみ。群馬県、ダメだなあ。

>カトリーヌ・アルレー
少年時代から読もうと思いつつ未だに実現せず。有名な「わらの女」も。これは図書館にありました。読まんといかんでしょうね。
映画は大昔に見ました。あの時代の映画は救いを与えてしまうのが多い気がします。
モカ
2019年06月27日 20:13
こんばんは。
少年時代にアルレーを読もうと思うなんてどんな少年だったんですか(笑)
わらの女で一番の悪女は作者でしょうね。これ、陥れる女をドイツ人、確か出身地まで指定して募集するんですよ。いくら戦後間もないといっても、どれだけドイツ人が嫌いなのかと思いました。同胞をここまでの目に合わせられないけど、ドイツ人なら許されると思ったんでしょうか。爽快な読後感とは無縁ですし、必読書とは言えないかな・・ これを読むならデュ・モーリエの「鳥・傑作集」をお勧めいたします。アルレーとモーリエって全然関連性ありませんけど、モーリエのほうが深くて上品なのでよろしいかと存じます。
オカピー
2019年06月28日 19:16
モカさん、こんにちは。

>どんな少年時代だったんですか(笑)
小学校に上がる前に毎日国語辞典と世界地図を眺めるのが好きな変わり者の少年でしたよ^^
だから、所謂子供の頃からコミックは余り読んだことはありませんし、TVアニメも中学になった頃には殆ど観なくなりましたね。
アルレーはミステリーの一つとして読もうとしただけで、ボワロー=ナルスジャックと同じフランスの作家ということで興味を持っていたんでしょう。
そう言われると余計に読みたくなるのが人情で「わらの女」だけは元気なうちに読みますよ(笑)

>デュ・モーリエの「鳥・傑作集」をお勧めいたします。
はぁい。
この短編集のタイトルだけは知っていました。調べましたら県立図書館にありました。8月頃から暫く遠い県立まで車で通う時期に当たりますのでその時に借りてみます。
モカ
2019年06月28日 22:31
こんばんは。 うむ、相当変わってましたね~ 末は博士か大臣かって言われましたでしょう。 そんな文学生き字引のような人がデュ・モーリエを読まないなんていけませんわ。後書きに書いてたんですが、彼女、キャロル・リードの恋人だったんですって。雰囲気のある美人さんですよ。
「悪女イヴ」検索しただけのつもりが、予約してしまってたみたいで、届いてしまいました。せっかくだし、男性の書いた悪女を読んでみます。


オカピー
2019年06月29日 19:26
モカさん、こんにちは。

>末は博士か大臣か
それに近い状態だったでしたかね。

>デュ・モーリエを読まないなんていけません
「レベッカ」は読んでしますよ^^v
しかし、短編とは言え「鳥」は読みたかったですし、他の短編も大いに関心あり。
ヒッチコックは「レベッカ」の前に「巌窟の野獣」というのを作っていまして、これも彼女の「ジャマイカ・イン(埋もれた青春)」の映画化です。

>キャロル・リード
へえ、知らなかったなあ。
リードは彼女の作品を映画化していませんよねえ。「落ちた偶像」などを見ると、リードと彼女の相性は良さそうなんですが。

>「悪女イヴ」
あらら。こちらのコメントが変な結果をもたらしましたね。恐縮です。
2019年07月04日 20:22
チェイス『悪女イヴ』は、ハリウッドが舞台で、ジャンヌ・モローの映画よりはドライで、ウソでごまかして世渡りしていた男がイヴと出会ったのをきっかけに自滅していく過程をハラハラドキドキで眺めるような小説でした。男が主人公なのがはっきりしてるおはなし。
ジャンヌ・モローの映画はモローの魅力をたんのうするための作品になったせいかちょっと重たいかんじでしたが、原作の小説はアメリカンハードボイルドもどきで、一夕のエンタメとしてさらっと楽しむのにはよいと思われます。
オカピー
2019年07月05日 21:31
nesskoさん、こんにちは。

>男が主人公なのがはっきりしてる
映画版も主人公の位置付けとしては男性なのだろうけれど、どちらも女性の方が印象に残り、実質的な主人公は女性という印象が残る作り方でしたね。

>モローの魅力をたんのうするための作品
そうでしたね。
監督がジョゼフ・ロージーなので、純文学的にしたかったのでしょう。

小説は気軽に楽しめるのかあ。群馬県の図書館では読めないので、財政的に余裕ができたら購入でもして読んでみます。
モカ
2019年07月10日 16:12
原作読了しました。映画は2作共、観ていません。
内容はnesskoさんの書いておられる通り、男が主人公で語り手でもあります。 原題は ”EVE” です。
男はイヴのせいで楽園を追放されたと言いたいようです。
この男がなかなかのポンコツ野郎で中盤まではイライラしました。中盤以降、だんだん破滅に向かってるなぁ、自業自得じゃわい、とワクワクしてましたが、大した破滅は待っていませんでした。彼を信じて結婚までした女性が破滅してしまいます。
男は元々が間違った道を選んでいるので、イヴに出会う、出会わないは関係なく、いずれだめになるのは目に見えている話です。
イヴは今風に言えば「ツンデレ女」ですが悪女じゃありません。職業に卑賤はない?のだから、彼女は立派に自力で生きています。このバカ男は今で言う「ストーカー」ですね。
作者はイギリス人でアメリカを舞台にしていますが、今もなおアメリカ社会に蔓延している(といわれている)ミソジニーを垣間見た気がしました。
オカピー
2019年07月10日 21:24
モカさん、こんにちは。

>この男がなかなかのポンコツ野郎
>イヴは今風に言えば「ツンデレ女」ですが悪女じゃありません

すると「エヴァの匂い」のジャンヌ・モローが一番悪女的であり、この新しい映画版は案外小説に近いのかな。
僕は(小説を読んでもいないのに)本作が原作から乖離しているような気がしたのですが。

>ミソジニー
案外難しい概念ですが、フランスのモンテルランはミソジニストのようです。ボーヴォワールがそんな風に批判していたような記憶があります。
モカ
2019年07月11日 17:25
私の読解力は当てにならないので、アマゾンを見ましたらレビューが1件しかなく、読書メーターで数件ありました。だいたいの意見はやはり、イヴは全然悪女じゃない(そんな魅力もない)主人公はクズ男、出版社は勝手にタイトルを変えるな等々で、まあ似たり寄ったりの感想でした。面白いことに後書き解説によると、ロージーの映画を原作者は三文映画と切り捨てたらしいです。
ロージーにしたら三流小説を一流映画にしてやったと思っていたかもしれませんね。 泥沼・・・(笑)
オカピー
2019年07月11日 22:26
モカさん、こんにちは。

>私の読解力は当てにならない
そんなことはなさそうですが^^

>ロージーの映画を原作者は三文映画と切り捨てたらしい
欧米の原作者は結構自作の映画化作品を批判することが多いですね。日本人は批判は概して避けますね。

>泥沼・・・(笑)
実際はどうか知りませんが、ロージーの風貌は気難しそうだから、本当に泥沼だったかもしれませんよ^^

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