映画評「ローサは密告された」

☆☆★(5点/10点満点中)
2016年フィリピン映画 監督ブリランテ・メンドーサ
ネタバレあり

ジャクリン・ホセがカンヌ映画祭の女優賞を獲ったフィリピン映画ということで観てみた。ついでに最高賞パルムドール候補としても出品されているが、僕の映画観では受賞どころか出品に値する作品と言えない。今月観た作品の平均にさえ達していないと思う。

夫フリオ・ディアスと雑貨店を経営するジャクリンは、4人の子供達(と言っても3人は働いて食べられる程度の年齢に達している)を養う為に通称“アイス”即ち覚醒剤を売る。しかし、密告されて夫婦共々警察に捕まると、ディーラー逮捕に協力するものの、そのディーラーが賄賂として出せる金額が予想より少ない為、警官は賄賂として計10万ペソを要求、彼女は子供たち3人に協力させて親族・知人から金を集めさせる。それでもさらに4000ペソ足りない為に漸く解放された彼女が無心に走る。

この映画の作られたのはドゥテルテ大統領が誕生する直前だが、彼の殺害も排除しない麻薬取締りの強硬姿勢を考えると、フィリピンの麻薬汚染は相当なもので、大統領誕生後に作っていたならこういう内容にはなっていなかったと思われる。

この映画に関してはAllcinemaに唯一投稿されているKE氏の意見は僕が鑑賞中に思ったことと殆ど同じでしかも要領よくまとめられているので、そちらを読んでほしいくらい。
 その中でも敢えて強調したいのは、この映画が仮にフィリピンの実情を捉えているとしてもそれがイコール映画の価値と言えないこと。あるいは、いかにも最近のセミ・ドキュメンタリーらしく、ピントが合っていなかったり、多くのショットが大して意味がなかったりするなど、映画の映像としての体を成していない、という問題。僕には見るに堪えない程である。

KE氏は、そうしたドキュメンタリー調の映像は映画の戦略である(から非難できない)としても、それによって却って現実とは違うことが現実であると思わされてしまう(弊害がある)かもしれない、という主旨の発言をしているが、慧眼である。こうしたメッセージ色の強いセミ・ドキュメンタリーがカンヌでは(時には出来栄え以上に)高く評価されがちであることに僕は常々不満に思っている。前述したようにメッセージの価値は映画の価値とはイコールではないのだ。

思ったほど出番の多くないジャクリン・ホセの演技は、最後の一幕が凄い。最後の金を何とか工面でき、無理やりせしめた小銭でだんごみたいなものを食べ、“おばさん、アイス売ってくれ”という声を背後に聞きながら、殆ど無表情のうちに涙を流す。圧巻だ。麻薬は悪だが、貧民がそういう犯罪に頼らざるを得ないフィリピンの現状の一端を感じた。しかし、ドゥテルテ大統領の誕生によってこういう貧民はいなくなりつつあるだろう。

彼らが集めているのは保釈金ではなく賄賂。麻薬絡みの汚職という関連で、1973年のアメリカ流セミ・ドキュメンタリーの秀作「セルピコ」を思い出しながら観ていたが、映画としては比較にならない。

韓国のポン・ジュノ監督「パラサイト」がパルムドールを受賞して話題になっている。しかし、ポン・ジュノ、キム・ギドク、イ・チャンドンは元来韓国映画の枠を超えた実力の持主であって、大衆映画を含めた韓国映画の水準が上がったことを示すわけではない。これで韓国大衆映画が洗練されてくると良いとは思うが。

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  • ローサは密告された

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