映画評「ロマン・ポランスキー 初めての告白」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2011年イギリス=イタリア=ドイツ合作映画 監督ローラン・ブーズロー
ネタバレあり

近年は一年に一本くらい映画監督の生涯や作品に関するドキュメンタリーが見られるが、作品としてそうスバ抜けたものは少ない。名匠・巨匠ともなるとその監督の作品を観た方が楽しめるというものだ。
 しかし、本作が扱うロマン・ポランスキーほど波乱万丈の映画監督はいないので、作りとしてはポランスキーの友人もである映画関係者アンドリュー・ブラウンズバーグの彼へのインタビューを中心に据えて卓抜したものではないにしろ、相当興味深く見られる。

僕が映画を観始めた1970年頃は彼の二度目の妻で女優シャロン・テートがかの狂信者チャールズ・マンソン一味に殺された直後で、僕の頭の中ではその事件に固執してしまうところがある。被害者なのに疑惑の目で見られたポランスキーはこれに相当苦しむ。

彼の悲劇の始まりは、彼がユダヤ人であったことにある。彼が6歳の時にドイツ軍のポーランド侵攻があり、クラクフとワルシャワを往復するが、結局父親の事前の手配もあり収容所行きは免れる。彼の一家で亡くなったのは母親だけで、父親も姉も無事に生還する。
 両親への思いは強くあったようで、父親の再婚には抵抗があった一方で、シャロンとの結婚で家族を持つということの幸福を初めて味わう経験となったのだが、一年ほどで奈落の底に落とされることになる。
 そして1977年にはアメリカで逮捕される結果となる少女淫行事件を起こす。正確なところは本人二人しか解らないが、強姦というよりはアメリカでは非常に厳しい未成年との淫行で裁かれたというのが実際ではないか。

紆余曲折があり一応釈放されたポランスキーはアメリカを去ってフランスに居を定め、スイスのチューリヒ映画祭に出席した際に再び逮捕されるが、スイス当局は要求元であるアメリカへ送ることはなく釈放する。1989年に「フランティック」に主演した33歳年下のエマニュエル・セニエと結婚し、二人の子供を設ける。小事件があっても1989年以降がポランスキーの一番幸せな時期に当たる、ということだろう。

映画自体が彼の私生活に関する言及が7割くらいなので、本稿もそうならざるを得なかったが、映画についても簡単に語ろう。
 スティーブン・スピルバーグが恐らくユダヤ人であるが故に強迫観念的に【逃走/逃亡】をテーマにする傾向があるように、ユダヤ人虐待を眼前にしているポランスキーは強迫観念的に【恐怖】をテーマに据えることが多い。恐怖映画の中で覗く/覗かれるシーンが多いように感じられるのもその関連であろう。

戦場のピアニスト」がやはり彼にとって一番意味のある作品とのことでした。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

2019年05月24日 23:16
これ、うかつにいうといけないのはわかってるんですが、ポランスキー、ウッディ・アレン、そしてワインスタインと、皆ユダヤ系ですよね。映画界にはユダヤ系が多いからというのもありますが、単なる偶然なのでしょうか。ワインスタインがレストランから居合わせた客に罵られて外へ出ていくのを撮った動画をネットで見てぞっとしました。
オカピー
2019年05月25日 20:52
nesskoさん、こんにちは。

>ユダヤ系…単なる偶然なのでしょうか。
難しいところです。
 民族的な傾向というのは確かにあると思います。
 同時に、現在草食系で性的に淡白という印象がある日本人ですが、僕より上の世代を見ると昔の日本人は性慾が強かったと思わせられます。僕が今免停(免許剥奪)の為にタクシー代りをしている人(団塊の世代)は、母親が義父と通じて出来た子供なので、父親が祖父でもあるという関係。その母親にはさらに愛人がいたようですし。そういう家が近隣にぞろぞろ。案外簡単に民族性の変わる可能性があるような気もしますね。

>ワインスタイン
詳細には知らないのですが、Wikipediaを読んでもこの人物の場合は相当問題があるようです。権力を持つと人間はそうなるものでしょうか。
2019年05月26日 14:13
民族性、というか、チャップリンもなにか同様の訴えを起こされていて、小柄なユダヤ系は若い子とトラブルになりやすいのかというのもありますが、一方で、ユダヤ系だから訴えを起こされやすいのかという疑問もあるのですね。ワインスタインは十分罪過もあるんでしょうけれども、あのレストランから追い出されていく場面は、ユダヤ人排斥を連想させられてぞっとしたのです。
オカピー
2019年05月26日 20:36
nesskoさん、こんにちは。

すっかり解りました。実は、nesskoさんの意図がどちらなのか迷ったので、変なレスになってしまったのです。

>ユダヤ系だから訴えを起こされやすいのか
民族性の問題より、こちらが主旨だったわけですね。

かのヒトラーが“後からやって来たユダヤ人は高利貸しなどアーリア人の嫌がる商売を始めて搾取した”と「我が闘争」で大嘘を言っています。実際には、アーリア人がユダヤ人がそれ以外の商売に就くのを妨害したのですよね。確かに現在のアメリカでも経済関係で成功する人が多いわけですが、それがヒトラーの言っているユダヤ人の性格的特性を裏打ちするわけではない。しかし、ヒトラーが元にしたマルティン・ルターのユダヤ排斥思想以来、ユダヤ人はそういうものであるという観念が(ナチスほどでないにしても)西洋人にしみついてしまったようですね。キリスト教徒たる彼らはイエスがユダヤ人であることをどう思っているのか知りたいくらいです。

>ユダヤ人排斥を連想
なるほど(逆に理解していました)。
 トランプ政権だけでなく、アメリカではユダヤ人勢力は凄いので、余り堂々と差別出来ないところもあると思いますが、それでも、アーリア人のどこかにそういう思想が依然あるのでしょうかねえ。
zebra
2019年06月08日 18:20
お久しぶりです。オカピーさん 令和になって初めてのコメントになりますね。
ポランスキーも大変でしたね。
シャロン・テート殺害事件はポランスキーはそうとうトラウマに悩まされたと聞いたことはありましたが 想像をはるかに超えるほど本人は苦労したんでしょう。

それでも、数年後にジャック・ニコルソン主演の「チャイナタウン」がヒットしたのも皮肉な話です。

>ポランスキーは強迫観念的に【恐怖】をテーマに据えることが多い。
この書かれた箇所なんですが シガニーウィーバーの「死と処女」を見たことがあります。
この作品はポランスキーが監督をしておりますが シガニーは忌まわしい過去を抱えており精神が不安定な主婦を演じております。
それがポランスキーの生きてきた人生観に関わってるかは断言できませんが その傾向はなんとなくありそうかな~という感じですね。
オカピー
2019年06月09日 09:09
zebraさん、こんにちは。

>トラウマ
妊娠中の最愛の妻を殺されたというトラウマに加え、自ら容疑者同様に扱われたことは相当トラウマになるでしょうね。
実際陰湿な人間関係で殺人の絡む「チャイナタウン」はよく作れたなという印象も持っています。

>「死と処女」
少年時代に堂々と道を歩く事すら出来ない数年間を送ったことが彼だけに、併称的な感覚を伴い【恐怖】をテーマに映画を作ってきたのだと僕は推測していますが、その後の苦い経験も当然映画作りに反映されているでしょうね。【不安】というテーマがあるとしたら、その反映でしょう。
この作品に関しては余りよく憶えていませんが、割合高く評価したようです(IMDbで自分の採点を確認)。

この記事へのトラックバック