映画評「万引き家族」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2018年日本映画 監督・是枝裕和
ネタバレあり

是枝裕和監督は山田洋次を別格として、現在僕が最も信頼する監督になった。彼は大半の作品においてセミ・ドキュメンタリー調で家族を描いてきたが、本作は初めて是枝監督に瞠目した「誰も知らない」(2004年)に近い感触がある。

東京の下町。日雇い労働者のリリー・フランキーとクリーニング工場に勤める安藤サクラの夫婦。彼の母・樹木希林、彼女の妹・松岡美憂、そして息子の城桧吏という五人家族を食わせるには月給は少なすぎる。足りない分は母の年金頼りだが、その他に彼は息子に手伝わせて万引きに常習にしている。妹はJK見学店なる風俗店でバイトをしている。
 ある夕刻父親と息子が団地の外廊下で震えている幼女・佐々木みゆを発見し、暫し面倒をみてやるが、父親がDVであることに気づいて、自分たちの娘として育てることにする。
 母親が死ぬと、葬式代も出せない夫婦は庭に埋め、年金をそのまま受給する。
 ある時、幼女が万引きをしようとするのを見た“兄”たる少年はわざと自分に関心が向くように行動して結局負傷する。このことから一家の不正が露呈し、母親を埋めたこと、家族が全く血が繋がっていなかったことを警察は掴む。死んだ母親は家出した美憂ちゃんの実家即ち前夫の息子夫婦の家に月命日に訪れてはお金を頂戴していたこと、少年はパチンコ店か何かの駐車場の車から助けられたこと、夫婦は正当防衛で彼女の前夫を殺していることが観客に知らされる。幼女は虐待される家に連れ戻される。

年金の不正受給のニュースが着想源というが、低所得者層の苦境や子供が受けている有形無形の虐待など日本社会の様々な様相が詰め込まれ、その中から家族とは何かという問題を浮き彫りにしていく。他人のことが他人事(ひとごと)には思えない僕には暗澹たる気持ちにならざるを得ない内容である。

色々な見方があろうが、はっきりしているのは、この疑似家族の夫婦は、法律的・道徳的には或いは教育上大いに問題があるものの、家族の情・人間の情という意味では、少なくともDVとネグレクトを繰り返す幼女の両親よりはずっとマシであるということ。外見では人間は解らないものだ。残念ながら警察はそれが見抜けない。
 従って、本作で一番不幸なのは幼女なのだが、かと言って実際の家族がダメと断言しているわけでもない(理想の家族像を押し付けない。その人にとって良いと思えるのが一番良い家族なのだ)し、実家に戻った幼女が謝罪を要求する実母に安易に謝らないところから判断して幼女なりに成長していることが伺え、しっかり生きていくかもしれない。鳶が鷹を生む、という諺もある。

カンヌ映画祭パルムドール(最高賞)受賞も伊達ではなく確かによく練られた脚本で、出した要素を無駄にしないところなど感心すること多し。例えば、“店に置かれている物は誰のものでもない”と言う“父親”に対し、少年が“それなら、車の中にある物は他人のものではないか”という旨の発言をする。これには自分が車の中から拾われたことへの思いが込められているはずで、この思いが後段で少年が幼女を罪から守る為ということも兼ねてわざと捕まることに繋がるのだと思う。

演技陣も充実で、中でも留置所で涙を流す安藤サクラの演技に絶句。元から上手い女優であるが、心底感心しました。

親の体罰への法規制が出来つつあるのは良いことだ。しかし、教師を余りがんじがらめにするのはどうかと思わないでもない。確かに暴力が行き過ぎるケースもあるが、ある年齢以上ともなると、子供が大人が何もできないという立場を利用することもあるのではないか?

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