映画評「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2017年アメリカ映画 監督ショーン・ベイカー
ネタバレあり

三日続けて佳作と言える作品に当たった。メジャー映画は世界的に殆どダメなので、嬉しくなる。しかも製作国それぞれの個性がよく発揮されているのが良い。

フロリダのオーランド。定職を持たずその日暮らしの白人シングルマザーのヘイリー(ブリア・ヴィネイト)が6歳の娘ムーニー(ブルックリン・キンバリー・プリンス)と淡い紫に塗られたモーテルに暮らしている。ムーニーは階下の少年たちとは悪戯仲間の関係で、向いのモーテルでの唾飛ばしがきっかけて同世代のヒスパニック系少女ジャンシー(ヴァレリア・コット)と仲良しになる。
 一方、母親ヘイリーは家賃を払うのに四苦八苦、安香水をブランドの香水瓶に入れ替えて売るなど小さな詐欺を働いて糊口をしのぐが、遂には自ら禁じていたらしい売春に手を染める。
 やや行き過ぎた悪戯からムーニーはジャンシー以外の友達の親から遊ばせてもらえなくなり、やがてヘイリーの売春行為が通報されて、児童家庭局と警察によりムーニーが里親の家に連れて行かれることになるが、断固拒否するムーニーは逃げ出してジャンシーの家を訪れ、そのうちしおれた様子に普段は大人しいジャンシーがムーニーの手を引っ張って、目の前にあうのに行くことが出来なかったディズニー・ワールドに向かって走り出す。

正にディズニー・ワールドとは対照を成すアメリカの陰の部分を描いた作品で、スケッチ描写を丹念に生き生きと積み重ねて、様々な差別や不当な扱いを受ける貧困層にアプローチする。
 日本でも生活保護を貰っている人に対する風当たりが強くなっているが、不運や病気その他の事情で働けなかったり、薄給の仕事しかできなかったりする人に対して“さぼり”と決めつけるのは不当である。当然映画を観る方の中にも本作のヘイリーの言動に共感が持てない人は少なからずいると思うが、実際こんな人が隣にいたなら迷惑と思うのは常識であるとしても、それと映画の中の登場人物とを同じように見てはいけない。

実際彼女は軽犯罪者であるが、それでも娘を一生懸命守ろうとしているのを見れば、世間を騒がす子殺しの親よりは数段ましと思わされる。同時に“虐待”はしていないという意見にも同意できない。夫婦仲が悪いことさえ子供に対する精神的虐待になるという広い視野に立てば、彼女の行動は精神的虐待に当たると言って良いからである。だから、ムーニーは短い間ジャンシーと夢の世界へ行ってもいずれ里親の許に行かされるのは目に見えている。これ以上はない親友となったように見えるジャンシーとも離れ離れにもなろうが、ジャンシーとの友情は文字通り生涯宝になるはずである。
 それ故に、二人が駆けていく様子を延々と追い続けるカメラの生きの良さが胸に迫り、やがて止まったカメラが二人の姿が小さくなっていくのを捉える様子に僕は“幸多かれ”の祈らずにはいられない。ヘイリーの不道徳な行動は映画の評価に何のマイナスにもならないが、娘の幸福を考えた時には、やはりきちんとした里親に出すのが良いと思われる。ヘイリーもそれは解っているだろう。

狂言回しであるモーテル管理人ウィレム・デフォーが味わい深い人物を好演。

日本人には解りにくいかもしれないが、ディズニー・ワールドを含めた一帯の開発をフロリダ・プロジェクトと言ったらしい。アメリカ人にはピンと来る題名なのだろう。

この記事へのコメント

2019年04月29日 08:05
デフォーは今作でアカデミー助演男優賞にノミニー、
オスカーあげたかった!(笑)
オカピー
2019年04月29日 20:49
onscreenさん、こんにちは。

>オスカー
に値する好演と思いましたね。
そもそも一人というのも無理なんですけれど。

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