映画評「星めぐりの町」

☆☆(4点/10点満点中)
2018年日本映画 監督・黒土三男
ネタバレあり

WOWOWの名物番組(?)“W座からの招待状”に出て来るのだから、仮に出来栄えはダメでも見どころはあると思ったが、見事に空振り三振という印象である。とりあえずお話。

愛知県豊田市の移動豆腐屋として名高い小林稔侍が、3・11で家族全員を失って以来極度に自閉的になった遠い親戚の少年・荒井陽太君(11歳くらい?)を引き取ることになる。口は利かず、時には凶暴性を発揮、場合によっては逃げ出す傾向もあるらしいが、豆腐屋は静かに見守ることをポリシーに少年に接していく。
 それが功を奏して、トラックで連れ回すうちに少年は徐々に心を開き、当地に大きな地震が起きて姿をくらましても舞い戻り、故郷の作家・宮沢賢治の「雨ニモマケズ(雨にも負けず)」をもじって“そんな豆腐屋に私はなりたい”と、今では父親のように慕う豆腐屋に言う。

という、人情がトラウマに苛まれる少年を再生させるお話。黒土三男監督はきっと人情家で、現実に伝え聞く東日本大震災の被害者たちを励ますような作品を作りたかったと想像するが、残念ながらこういう人情噺にこそ必要な技術が全く足りず、全く本当らしくないお話に推移する。

蝉しぐれ」の時に黒土監督は脚本だけにして監督をしないほうが良いのではないかと述べたが、「蝉しぐれ」でも目立った大袈裟なところがオリジナルの脚本故に余計に目立ち、かつ、娘役の壇蜜をめぐる多くの(全部とは言わぬ)場面あるいはラーメン屋の妹・佐津川愛美がマンガを描いている描写など構成上何の意味もなさない無駄が相当に多い。

その代わり描いておけば良いのに描かないところもある。例えば、少年がなついて安心し商売を終えようと老人がトラックに戻ると、少年がいない。トラックを少し走らせると少年たちがサッカーをしている。その中に陽太君もいて老人はホッとする。という場面で、映画言語をよく知る監督であれば、事前に少年たちがサッカーをしているところを仕事に向かうトラックの向こうに見える遠景として何気なく見せておくであろうが、それがない。
 観客に“姿をくらましたのか”と主人公の豆腐屋同様サスペンスを感じさせようという狙いと推測できるが、映画をよく観ている人なら“ドラマツルギー上ここで失踪はない”と解る。
 映画は映画ファンの為だけに作られるのではないと言われればその通りながら、そのレベルの映画に面白く思ったり感動できたりするほどこちらも甘くなく、必然的に厳しく見ざるを得なくなる。同じヒューマニストでも山田洋次監督であれば、僕が言うように作ったと思う。

タイミング的にはぴったりでしたがね。3月11日にアップするのも手だったが、それはちと厭らしいだろう。

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  • 星めぐりの町

    Excerpt: 愛知県豊田市。 豆腐屋を営む島田勇作は、妻を早くに亡くし一人娘の志保と2人暮らし。 ある日、妻の遠縁の少年・政美が警察官に付き添われてやって来た。 東日本大震災で家族全員を失った政美は誰にも心を開かず.. Weblog: 象のロケット racked: 2019-03-09 18:01