映画評「ブリグズビー・ベア」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2017年アメリカ映画 監督デイヴ・マッカリー
ネタバレあり

誘拐犯に育てられた子供の、実の親に引き取られた後の反応を描く点で我が邦の「八日目の蝉」に似ているところがあるが、狙いは寧ろ逆である。

25年も偽の両親(マーク・ハミル、ジェーン・アダムズ)に育てられ、世間から完全にシャットアウトされていた青年ジェームズ(カイル・ムーニー)が警察に“救出”され、毎月楽しみに観ていたクマが月の化身のような敵と戦うファンタジー“ブリグズビー・ベア”が偽の父親が作っていたものと知る。社会を初めて知る青年にとってはこのファンタジーが精神の拠り所となるが、家族特に実父(マット・ウォルシュ)はなかなか理解してくれない。或いは精神科医(クレア・デーンズ)も社会適合に向けて厳しく接してくる。
 そんな中でも同世代の映画好き青年は彼に好意を持ち、ビデオの続編となる映画の製作に協力を申し出る。妹(ライアン・サンプキンズ)も理解し始め、昔演劇少年だった刑事(グレッグ・キニア)も共感を示し、やがて彼の作った未完成の作品を観た父親も理解に至る。

「八日目の蝉」の現在は、誘拐された娘が自分の心の呪縛を解いていく物語であるのに対し、本作は寧ろ主人公が周囲の人間を変化させていく物語と理解することができる。主人公は、社会に対する知識を深めていくことはあっても少しも変化していないのである。

コメディーなので当然ではあるものの、それを別にしても、本作にはアメリカ的な楽観性が垣間見える。日本では誘拐された人間を主人公にしながら周囲の方が変わっていくという話はなかなか作れないだろう。
 あるいは、“ブリグズビー・ベア”が犯罪者の作った作品という烙印を押されたにも拘らず、最終的には多くの人に受け入れられる、というところに映画ファンに対するメッセージも配されているように思う。マーク・ハミルを出演させて、どこか「スター・ウォーズ」を思わせる部分があるのも愉快。

主演のカイル・ムーニーが原案と共同脚本を担当している。

ウサギの後はクマでした。

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この記事へのコメント

浅野佑都
2019年03月04日 11:07
 これは、2018年の僕のベスト10に入った作品です。
やはり僕も「八日目の蝉」と、シチュエーションにおいて基本設定の似ている「ルーム」を思い起こしながら鑑賞しました。
特に「ルーム」は、設定に付随するディテールや人物描写は深く掘り下げてあり、こちらはやや雑なのですが、僕は断然、この作品のほうを買いました。

コメディタッチながら過去の映画へのリスペクトも多くあり、月の化身は、世界初のSF作品「月世界旅行」のオマージュでしょう。
主人公の友達がスタートレックマニアだというのも気が利いてましたね。

>マーク・ハミル
犯罪者ではあれど、主人公に深い愛情を注いでいたのは痛いほどわかる・・。
最近の毒婦ならぬ”毒親”というのは、おもに母娘関係において、我が子を支配し続け、人格までも否定するような親を指しますが、それと比べればどちらが本物の親といえるのか・・。

>周囲の方が変わっていくという話はなかなか作れないだろう。
 やはり、日本だと被害者に罪はなくても、犯罪そのものをイメージさせてしまい、マイナス面のほうが大きい場合もありますからね(世間の目という意味で)・・。
この辺は、被害者の権利がより強調される米国ならではだと・・。

 ハーヴェイ・ワインスタインや、「ゲティ家の身代金」で告発されたケビン・スペーシー、日本でも新井浩文等、罪を犯した映画人が関係した映画というだけで、観たくないと思う人もいるでしょうが、そうではないのだと僕も思いたいですね・・。
オカピー
2019年03月04日 20:24
浅野佑都さん、こんにちは。

>2018年の僕のベスト10
おおっ、そうですか!
僕は、良い作品とは思いましたが、テイスト(インディすぎる?)が少し好みから外れた感じで、一年遅れのベスト10からは洩れそうな気がします。

>犯罪者ではあれど
本作のマーク・ハミルや「八日目の蝉」の永作博美のような誘拐犯なら、下手な実の親より良いかもしれません。本作の親はなかなか立派ですが、連日TVを賑やかす事件を起こすような親なら誘拐犯のほうが遥かにマシですよね。

>被害者の権利
つい最近も芸能人にあったようですが、被害者が何故か謝るという図式がたまにありますね。
 20年ほど前、加害者より被害者の権利をもっと重要視しなければならないと、死刑反対派の部下の女の子と口論になりましたよ。

>罪を犯した映画人が関係した映画というだけで
僕もこの映画の立場を支持します。
 二日前に息子の就職の連絡に来た姉夫婦との間も少しそういう話が出て、姉なども「これから公開する作品はまだしも、過去の作品まで封印される(としたら)のはどうか」と疑問を呈していました。
浅野佑都
2019年03月05日 01:18
>被害者の権利をもっと重要視しなければならない
このことが本格的に叫ばれだしたのは、裁判員制度がスタートした10年ほど前に過ぎませんよ・・。20年前にそれを言ったのはプロフェッサーの慧眼で、日頃、映画評論には、社会を分析し、斬ることのできるバランス感覚が不可欠と感じる僕には納得のエピソードです・・。

>死刑反対派の部下の女の子と口論

 その彼女は、クリスチャンではなかったでしょうか?

僕は、基本的には死刑は廃止の方向がよい・・とする立場ですが、現在の日本人の社会意識は、インターネット普及以前よりも凶悪犯罪者への死刑要求が強いように感じますし、終身刑のない日本では、刑の重さにおいて、死刑と無期懲役との間が開きすぎているので、国民感情を考慮すれば死刑はまだ必要なのかなとも思えますね・・。

 また、判例主義の日本の法制度では、殺人事件で犠牲者が一人の場合、犯人が死刑になることはまずないわけですが、アメリカでは、映画でよく第一級殺人と訳される計画性のある「First degree murder」は、一人殺しても州によっては死刑になりえます。

そういえば刑事コロンボも殺人課(homicide)の刑事(lieutenant)でしたね。

性犯罪に厳しいアメリカでは、性犯罪者は出所後も各州の警察に登録義務があり、地域に社会復帰した犯罪者の有無を調べる公的サイトもあります。日本は甘いですね。

日本も個別の犯罪の罪を累積する、罪量加算制度を取り入れるべきでしょうね。
海外ニュースなどでよくある、懲役150年とか・・。アル・カポネもこれでエリオット・ネスに挙げられました。
これなら、刑期が無期の凶悪犯が15年や20年で出所するという事態は避けられるし、一生、働いて罪を償ってもらえばいいですからね・・。
オカピー
2019年03月05日 19:35
浅野佑都さん、こんにちは。

>慧眼
恐れ入ります。その何年も前からずっと感じていたことでしたので、相当激しい口論になりましたよ。

>クリスチャン
正確には解りませんが、可能性はありますね。
彼女は入社前にニュージーランドに留学していたという触れ込みで入って来たのですが、僕が依頼した雑誌記事(確かにちと難しかったが)の翻訳が全くできずに呆れたという記憶もあります。

>基本的には死刑は廃止の方向がよい
僕のほぼその考えですね。
死刑反対論者に多いのは、冤罪絡みですが、死刑の問題と冤罪の問題を一緒にするから話がややこしくなる。死刑については国家権力が人を殺すことについてのみ本来は考えなければならないと思いますね。確かに冤罪で死刑になってはたまらないので、疑いがある限り、帝銀事件の平沢貞通のケースのように、死刑を執行してはならないでしょう。

>死刑と無期懲役の間が開きすぎ
>罪量加算制度
良いかもしれません。賛同致します。

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