映画評「マンチェスター・バイ・ザ・シー」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2016年アメリカ映画 監督ケネス・ロナーガン
ネタバレあり

十余年前にケイシー・アフレックを知った時に兄さんベン・アフレックより遥かに良い俳優と感じた(兄さんも相当良くなってきた)が、本作でアカデミー主演男優賞を獲ったのはご同慶の至りに存する。

ボストンのアパートのしがない便利屋をしているアフレックは、小さな港町で暮らす兄カイル・チャンドラーが持病の心臓病で亡くなったことを知るが、兄が妻と別れていた為に彼が16歳になるその息子ルーカス・ヘッジズ君の後見人に指定されて当惑する。ボストンでの生活を続けたい彼としては、父親の想い出のある小型船や港町に拘泥する少年を翻意させたいのだが、これがなかなかうまく行かない。
 無口ではあるが時々怒りを爆発させるアフレックがそうなったのは、数年前に自分の不注意による火事で幼い娘二人を失ったことへの自責の念である。過失を責めて離れていった妻ミシェル・ウィリアムズは、義兄の葬式への出席を希望し、別の男性の子供を設けるところであると告げる。彼女も実はなじったことを後悔しているらしいが、元には戻りようもない。
 アフレックは少年と反発し合いながらも彼の為に良かれと色々と努力をするうちに彼との距離が縮まり、同時にそれが彼自身を救っていくことになる。

様々な人との交流が主人公の凍り付いた心を徐々に溶かしていくというお話なのだが、大人の理想論的な巧言より、思春期を満喫する為に父の死んだことも半ば忘れて悪戦苦闘している少年のストレートな言動のほうが傷ついた主人公を効果的に慰めてくれるというところが良い。
 主人公が直面してきたシチュエーションが喪失感と罪悪感を一緒に味わったことのある僕の胸に迫るものがあり、また、喪失の苦しみはあっても思春期の欲動を抑えきれない少年らしい活気に癒される思いがするのは僕も主人公と同様である。

作品としては純文学系邦画が得意とするような陰鬱なムードが全編を支配してい、港町周辺の風景に主人公の沈痛が沈潜しているように感じられるところがぐっと来る。完全に再生したところで終わらないのも現実的な扱いで良い。
 技巧的には、フラッシュバックの使い方が唐突で非常に解りにくいと文句を言いたかったのだが、WOWOW“W座からの招待状”で信濃八太郎氏が仰るように、実際の人間の回想に即したものと考えると納得できるのである。

ケイシー・アフレックはオスカー受賞も当然と言える好演。

タイトル全体で、町の名前なんだってね。日本人なら大概そう思うように、僕も甥っ子が過ごした英国のマンチェスターのお話かと思って暫く観ていましたよ。

この記事へのコメント

2019年03月16日 16:08
最近は緩んだご面相にも風格が備わってきた
お兄様にはホッと安心などしておりますが
地味無口の弟の本作での役柄はピッタンコ
でしたね。密かに応援しておりますが
どうも素行がおよろしくないとの世評など
聞こえて参ります。演技者としての能力と
場まで奪われないことを願いますが。
海に面した地方の町、小樽みたいなところ
かしら〜とか思って見ていました。
その辺の人々の話・・・語りがうまい秀作でした。
オカピー
2019年03月16日 22:33
vivajijiさん、こんにちは。

>お兄様
若い頃は“つまらん俳優よのう”と思っていましたが、最近は良い味を出してきましたね。

>地味無口の弟
>素行
昔から良い役者でしたが、正にうってつけの配役でしたね。
素行は作品とは関係ないとは言え、雇われる側の俳優として職を奪われてはつまらないわけで、vivajijiさんの懸念は同感です。
最近日本で作品まで封印するのはどうかという過剰な反応が目立つ芸能人の事件が続いていますが、アメリカも最近は過剰な反応をしますからね。人間に余裕がなくなってきました。本作を製作したマット・デーモンを発言がもとで、カメオ出演の場面がカットされたとか。

>小樽
僕は、函館が舞台の「海炭市叙景」などを思い出していました。断然北海道の気分がありましたね。

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