映画評「ニュー・シネマ・パラダイス」

☆☆☆☆☆(10点/10点満点中)
1988年イタリア=フランス合作映画 監督ジュゼッペ・トルナトーレ
ネタバレあり

社会人になってから映画館で観た映画の中で恐らく一番好きな作品ではないかと思う。監督ジュゼッペ・トルナトーレは新人だったが、感覚が抜群で生意気にも“端倪すべからざる才能の新人が現われた”と評価した。その期待を裏切らず彼の後発作品はいずれも素晴らしい。僕の審美眼から言えば、世間の彼に対する評価は低すぎるくらいである。

30年も故郷のシチリアに帰っていないローマ在住の映画監督サルヴァトーレ(ジャック・ペラン)は、母親からの連絡で、故郷の恩人アルフレード(フィリップ・ノワレ)が死んだと知らされ、過去を回想し始める。
 第二次大戦中ロシアに出兵したまま帰らぬ父親を母親や妹と待つ10歳くらいのサルヴァトーレ少年愛称トト(サルヴァトーレ・カシオ)は、アルフレードが技師を務める映写室に入るのが大好き。映画好きだが厳格な司祭が検閲して切り取ったフィルムを時々掠めるが、それがぼやを引き起こすなど、大好きなアルフレードに迷惑を掛けたりもする。やがてアルフレードの信頼を得てトトが映写を任されるようになった後、特別上映の際にセルロイドのフィルムが発火して火災が発生、アルフレードは火傷を負って失明する。
 戦後父親の戦死が確定した後、新装された映画館で映写技師を務めるようになった若者トト(マルコ・レオナルディ)は8mmカメラを買って映画撮影の真似事をするうち同じ学校に通う富豪令嬢エレナ(アニェーゼ・ナーノ)に恋心を抱き、毎日窓下へ通う執念が実って相愛の仲になるが、出兵しているうちに音信不通になってしまう。
 アルフレードは失意の彼に“外に出て戻って来るな”と言い放つ。大きな志を持ち小さな人間になるなということである。その言を忠実に守った彼は映画監督として成功、30年ぶりに故郷に帰ってくる。

大半を占める回想場面に出て来る無数(大袈裟に言うとね)の作品が紹介されるのを見るだけで、トルナトーレの好きな作品が判ってくるお楽しみがあるし、その作品群の殆どを観ている僕でも、またそれらを観たくなってきてムズムズしてくる。ある意味罪深い作品ですな。

しかし、回想場面以上に、僕が感心した(そして今回も)のは母親が戻って来た息子を迎える場面における毛糸の扱いで、ルネ・クレール「そして誰もいなくなった」の死体発見に匹敵する名カット。母親が進むにつれて編み物の毛糸がほぐれ、そして止まる。息子の前に立った瞬間だ。こういう極めて“映画的”と言うしかない画面を見て僕は“この監督は大物になる”と思ったわけであります。
 その後ローマに戻ったサルヴァトーレがアルフレードの残したフィルムを見る場面、というよりそのフィルムが映す中身が圧巻。司祭の検閲で切り取られたキス・シーン集になっていてこれが映画ファンなら涙を流さずにはいられないものなのだ。総じてカイエ・デュ・シネマ的なAllcinemaの解説は僕と合わないことが多いのだが、本作担当者の“涙なくして観られまい”に僕は賛同する(実際落涙したから)。映画ならではのキス・シーンの美しさ。その一つ一つの絵の強さにやはりプロの監督は凄いなあと思わされる。
 サルヴァトーレの涙はアルフレードの愛情に捧げられたものであろうが、キス・シーンが蘇らせる切ない初恋の記憶も混じっていたかもしれない。主人公が優れた映画監督であるが故に、映画への思いをその涙に入れるのは寧ろ野暮であろう。

また、母国の偉大なる先輩監督フェデリコ・フェリーニへの表敬があるように感じた。具体的なオマージュではなく、例えば「フェリーニのローマ」が見せた猥雑な昔の映画館風景であったり、本作で実際に紹介されている「青春群像」のような故郷を後にする若者(主人公をフェリーニと考えればやはり後の大映画監督の若き日のお話ということになる)の姿であったり・・・そこに単なるノスタルジーに留まらない映画への強い思いを感じ、それもまたこの作品を感動的なものにするのだ。

保存してあるが、完全版は未鑑賞。評判が悪いのでね。

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