映画評「グランド・ホテル」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1932年アメリカ映画 監督エドモンド・グールディング
ネタバレあり

戦前人気があり色々と映画化されたオーストリアの女流作家ヴィッキー・バウムの中でもこの作品は原作、映画化作品ともに抜群の出来で、今回も実に面白く観た。昨今の不純物や夾雑物のまじった作品に見慣れた人は物足りなく思い、“人物の背景が薄い”などと愚にもつかないことを言う。想像力で見る、行間を読むというタイプの作品(の価値)を知らないのですな。

言うまでもなく、現在でも使われる映画用語“グランド・ホテル”形式はこの作品から名付けられた。

ベルリンの超一流ホテル“グランド・ホテル”に、起死回生を狙った契約に行き詰る実業家ウォーレス・ビアリー、死を待つだけのその会社の経理担当者ライオネル・バリモア、ビアリーに雇われるタイピストのジョーン・クロフォード、ギャングに借金返済を迫られる男爵ジョン・バリモア、落ち目となったことに耐え切れないバレエのプリマドンナたるグレタ・ガルボが宿泊中。
 ジョンBは空き巣に入ったグレタが如何にも死にそうな様子なのを心配し、かつ自分の潔白を偽装する為に、彼女に寄り添ううちに真剣な恋に落ちる。彼は他にライオネルBの面倒も見、今まで遊んできたことがない彼にジョーンを紹介して踊らせる。
 しかし、善人を騙すことはできないジョンBは、冷酷な実業家ビアリーから財布を失敬したのを見咎めらて揉み合ううちに死亡する。翌朝周囲の隠匿によりグレタはそんなこととはつゆ知らず、彼が待っていると信じて意気揚々と駅へ向かい、生気はあるが金のないジョーンと金はあるが余命がないライオネルBは互いを鼓舞する形でパリに旅立つ。

同じように旅立つにしても悲劇を知らずに出て行くグレタと、当座は明るい未来が待っているジョーンとの対照が鮮やか千万、観客の胸を強く打つ。人生いろいろと言うべし。

追い詰められた人々の人生縮図として見せ方が誠に秀逸。群像劇と言っても5人という多くない数に絞ったのが良かったのである。
 幕切れのグレタの描写や、バトンを渡すように人物が繋がれていく序盤の描写が流麗で、三谷幸喜が「THE有頂天ホテル」(2005年)でこの感覚を再現しようと頑張っていたのを思い出す。僕の記憶では、長回しを意識しすぎて却って匠気が目立つ結果となり、完全にはうまく行っていなかった。

エドモンド・グールディングは他の作品でも場面やショットの繋ぎが滑らかで、僕のお気に入り。現在見られる作品は限られていますがね。

ジョン・バリモアはドリュー・バリモアのお祖父ちゃん、ライオネルは大伯父です。

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この記事へのコメント

2019年01月26日 21:07
グランドホテル形式、という言い方の元はこの映画ですよね?
淀川長治が大ヒットした「タイタニック」をあのバカ映画とこきおろして、あんなガキ二人の話じゃなくて、船に乗っているいろいろな人のことを描きなさいよ(前作みたいに)とおっしゃっていたのを思い出し、それは言い換えればグランドホテル形式でやりなさいよ、ということになるんでしょうね。前作のモノクロ版は、上から下までいろんな人の様子が描かれて、それがおもしろかったですし。
ジェームズ・キャメロンの「タイタニック」は、私も見ていて氷にぶつかるまでが長すぎるかんじがして疲れたので、さすが淀川先生と思いましたが、当時若い人はあの映画の主人公二人のラブロマンスがよかったと言っていた人も多かったので、どちらが正しいというものではないのでしょう。キャメロンの「タイタニック」は見せ場は特撮だったし。
オカピー
2019年01月27日 09:46
nesskoさん、こんにちは。

>グランドホテル形式
仰る通り、この映画からですね。

>前作
「SOSタイタニック」のことでしょうか。
あの作品には僕も感銘し、「タイタニック」は大分及ばなかったとは思います。先生らしい言い方だなと感じますね。

>主人公二人のラブロマンス
双葉先生は、タイタニックの事件をモデルにした恋愛映画「歴史は夜つくられる」を下敷きにしてのだろうと仰っていまして、淀川先生ほどは厳しく批評されていません。

>見せ場は特撮
双葉師匠も、この点について、“圧倒的なスペクタクル”と高く評価しています。トータルとしてはこの見方のほうが大衆的であり、一般的であると思いますね。
僕も大傑作とは思わないものの、一応楽しんだ口です^^

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