映画評「グレートウォール」

☆☆★(5点/10点満点中)
2016年中国=アメリカ合作映画 監督チャン・イーモウ
ネタバレあり

グレートウォール即ち万里の長城がタイトルになっているが、余りお話に関係ない。中国が既に発明していた黒色火薬を求めて西洋からやってきた傭兵マット・デーモンとペドロ・パスカルが饕餮(とうてつ)という怪獣を偶然うまく退けて逃げた先が万里の長城で、そこを守る禁軍に捕まるというだけである。

僕が序盤に見落としたかのかもしれないが、いつの時代のお話か考えながら観ていた。傭兵二人が後の英国とスペイン出身と考えられ、かつデーモンが弓が得意であることからロビン・フッド辺りをイメージ、彼の主君であるリチャード師子王が十字軍としてエルサレムを目指していた頃のお話だろうと推測した。ということは12世紀宋(北宋)末期のお話だ。実際 wikipedia でこの映画について調べたら宋とあった。

饕餮は宋の悩みの種で、これを何とかしないと首都にまで迫り人類滅亡だと危機感を持っている。結果的に弓矢の名人デーモンが、最初は敵対しつつも結局女将軍ジン・ティエンと一致協力し、彼らの生物的特徴を利用して爆弾を背負わせた一匹に目掛けて火矢を放ち、平らげる。

というだけのお話だから、実質90分余りという短尺で終了する。大量のVFXの為に上映時間は103分ながら10分近くエンド・ロールがある。

例によって歴史・時代考証的には色々と出鱈目。
 出鱈目その一は、女将軍と女性の兵士たちである。男女平等もドグマの一つである共産主義を標榜する中国だから白人が前面に押し出したフェミニズムにも文句を言わない。その代わり本作に低い評価を下した国内映画サイト二つを糾弾し、評価を削除させた。さすが全体主義国家である。
 出鱈目その2は“中国人が英語を知っている”こと。本作では先に来ていたウィレム・デフォーが女将軍に教えたことになっているが、当時の国際関係から言えば遠方から中国に来た者が中国語を憶えることがあってもその逆はまずない。当時の東洋の国際語はシルク・ロードを支配していたソグド人の話すソグド語(イラン系の言葉)であっただろう。それを別にしても、英語が真の意味で世界的言語になって百年に過ぎない。第一次大戦以降米国が強くなってからだ。ファンタジーであるから史実関係は重要ではないものの、この映画を観て英語が大昔から世界的言語であったなどと勘違いして貰っては困るのである。今の中国人が英語を一生懸命学んでいるのは事実で、そのことを婉曲的に示している可能性はある。

僕はそんなことばかり気にして観ていたのでどうもお話に入り込めず、饕餮という中国の伝説的な生き物を持ち出してきたのが少々面白かったくらい。個人的な事情を無視しても、大人が楽しめるレベルの内容とは言い難い。

主人公がウィリアムという名前なのは、英国のロビン・フッドと共に、スイスのウィルヘルム(ウィリアム)・テルが頭に浮かんだからであろう。原案・脚本に少なからぬ人が関わっているが、それでこの程度とは。すっかり中国国家の提灯持ちになったチャン・イーモウに甚だ幻滅の巻だ。

そう言えば、昨年末トランプ陣営の誰かであったろうか、中国に花を持たせる映画を作るのは止めるべきだ、という発言を耳にした。

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    Excerpt: 黒色火薬を求めてシルクロードを旅する途中、馬賊と正体不明の獣に襲われた西洋人ウィリアムとトバールは、万里の長城に辿り着き、宋王朝(960~1279)直属の軍隊・禁軍に囚われる。 2人を襲った獣は、二千.. Weblog: 象のロケット racked: 2019-01-19 02:21