映画評「SING/シング」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2016年アメリカ=日本合作映画 監督ガース・ジェニングズ
ネタバレあり

1970年代以降ミュージカルは枠物語(劇中劇)形式で舞台の上もしくは幻想の中で歌わせたり踊らせたりする作品(「コーラス・ライン」「オール・ザット・ジャズ」等)が増えた結果、日本でも徐々にミュージカル愛好者が増えた。おかげで近年では昔風に“突然歌い始める”本格ミュージカルも当たるようになってきたのは良いことである。
 但し、僕のように昔のミュージカルを大量に観ている者にとって日本でも大好評だった「ラ・ラ・ランド」でも全く物足りなかったと言っておかなければならない。あの程度の踊りで満足して貰っては困るのである。フレッド・アステアとジンジャー・ロジャーズのコンビ作を何本か見て欲しい。

その意味では舞台上形式のアニメのこちらのほうが素直に楽しめる。厳密に言うと、使われた既成曲が好みだったと言うべきだろうが。特に、いきなりビートルズ「ゴールデン・スランバー」Golden Slumber(歌:ジェニファー・ハドスン)から始まるのに痺れた。
 この曲は都合三度使われ、二回目ではLP「アビイ・ロード」の中でメドレーとなっている「キャリー・ザット・ウェイト」Carry That Weightも歌われ、その歌詞が文字通り重み(weight)を持つことになる。

コアラのムーン(声:マシュー・マコノヒー)は歌姫ナナ(若い時の声:ジェニファー・ハドスン)の歌を聴いて感激し興行主になったものの当たった例なく、劇場と土地を担保に取られて首が回らない。挽回の為に賞金付きで歌のコンテストの開催を決めるが、ずっこけ秘書のせいで賞金が100倍となり物凄い応募者が集まってしまう。
 それを隠して、ブタの主婦(声:リース・ウィザースプーン)と対となる雄ブタ、ゴリラの少年(声:タロン・エガートン)、ネズミのストリートミュージシャン(声:セス・マクファーレン)、ハリネズミのパンクデュオの片割れ娘(声:スカーレット・ヨハンスン)を合格させる。ところが、ネズミの不正ポーカーに腹を立てたクマの一団が劇場に現れ、結果的に劇場は崩落し、土地は債権者の手に渡る。が、歌う楽しみを知る応募者たちは落ち込むムーンの為に無償で出し物をすることにする。

「キャリー・ザット・ウェイト」は“坊や、君はその重荷をずっと背負って行くのさ”という歌詞に始まるわけで、失意のムーンを逆説的に励ます内容になっていると思う。ぐっと来ましたデス。

かくして、彼らの舞台は中継され、服役中で息子と断絶していたゴリラ少年の父親も脱獄して現れたり、ネズミの訳あり彼女も馳せ参じ、内気で歌うことが出来なかったゾウの娘(声:トリー・ケリー)も実力を発揮する。

こういう大団円を予定調和(これも世界観同様に元は哲学用語)と仰る人が多いが、別に問題はない。人情味をうまく味わわせてくれたら文句を言うに及ばず、見せ方が上手いかどうかだけが問題なのである。しかし、多分にアニメだから割合素直に観られるのであって、鑑賞者の思いが現実味に傾きがちな実写では鼻白むかもしれない。

さて既成曲について。映画でよく使われる曲が多いのだが、スペンサー・デイヴィス・グループの「ギミー・サム・ラヴィン」Gimme Some Lovin'は相変わらず格好良い。エルトン・ジョンの「アイム・スティル・スタンディング」I'm Still Standingも中期エルトンの中では相当良い。「マイ・ウェイ」の歌詞和訳は布施明バージョンの歌詞をそのまま(多分吹き替えでこの歌詞で歌ったと推測する)。オランダ出身ショッキング・ブルーの「ヴィーナス」はアメリカでも売れたのか(尤も英国のバナナラマがリバイバルさせましたな)? 日本から参加のキューティーズ絡みで紹介されるのはきゃりーぱみゅぱみゅの曲らしい(最近の曲は、邦洋問わず、大ヒット曲でもとんと知らない)。

I'm Still Standing は、エルトン・ジョンが影響を与えたビリー・ジョエルを逆に参考にした感じがする。当時ジョエルと曲と言われれば信じそうなくらいの感じがした。ショッキング・ブルーの日本における最大のヒット曲は「悲しき鉄道員」Never Marry a Railroad Manと思う。

この記事へのコメント

2018年12月28日 15:58
お子様向きのアニメであろうが
はたまたベタな展開であろうが、鑑賞者を
ノセて飽きさせないのが優れた映画ですよ。
その点だけでも、本作は十分及第点作品。
ま、音楽チョイスの出来の良さも大方を
占めておりますが、楽しめました。

対象的に、やたら暗い話題作とを、無謀にも
同じ土俵に乗せたような拙記事持参ですわ。^^
オカピー
2018年12月28日 22:22
vivajijiさん、こんにちは。

>鑑賞者をノセて飽きさせないのが優れた映画ですよ
同意です。
乗れる・乗れないに個人差はあるでしょうけどね。それは着地点の問題ではない。

>音楽チョイス
これについては本文で述べた通り。格好良い音楽が多かったですね。

>やたら暗い話題作
「ムーンライト」ですね。
 映画的に褒めたいところもあったけれど、「ブエノスアイレス」系は苦手なので趣味ではなかった。
2018年12月29日 11:08
これは年末年始にぴったりな映画ですね!

>やたら暗い話題作
>「ムーンライト」

あれは私もダメでした...
そのショックで話題だった「君の名前で...」もパス!
さらに「ボヘミアン...」さえも、パス!(笑)
オカピー
2018年12月29日 22:43
onscreenさん、こんにちは。

>年末年始にぴったり
そうですねえ。
昨今は“正月映画”といった文化がなくなったとは言わないまでも弱体化している感があるので、こういう楽しい作品は良いですね。
onscreen
2018年12月31日 02:41
今日ちょうどWOWOWで放映されるので観たいと思います!
オカピー
2018年12月31日 12:19
onsreenさん、こんにちは。

>WOWOW
本当だ!
また楽しんでください。

そして、良いお年を!

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