映画評「レッド・スパロー」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2018年アメリカ映画 監督フランシス・ローレンス
ネタバレあり

日本劇場未公開作が多いジェニファー・ローレンス主演映画だが、これはいかにもメジャーらしい内容なのできちんと公開された。

ロシアの一流バレリーナのジェニファーが足に重傷を負いバレエ団を解雇同然になる。そうなると今住んでいる場所から出て行かなくてはいけないかもしれない。彼女は病気の母親ジョエリー・リチャードスンを養う役目も担っているので、ロシアの情報庁幹部を務める叔父マティアス・スーナールツに“母親の治療が出来なくて良いのか”と脅され、泣く泣くハニートラップ専門のスパイ養成所に入る羽目になる。
 そこで学んだ人心操作術を駆使してロシア情報庁内部にいる二重スパイ“モグラ”を焙り出す為、“モグラ”と通じているCIA捜査官ジョエル・エドガートンにブダペストで接近するが、当初の段階から何故か殆どの事実を彼に告げ、部屋をシェアする同僚から情報を売ろうとしている米国議員補佐官メアリー=ルイーズ・パーカーとの交渉権利を得るとCIAに売り込み母親と一緒の亡命を企むが、米国サイドが早く動き出し過ぎた為に情報庁に怪しまれれて拷問される憂き目に。
 しかし、これも作戦のうちと一応の信用を勝ち取り、再びエドガートンと接触する。

これ以降も色々と激しい動きがあって“お話”としてはなかなか面白い。最後の展開について“美人局(つつもたせ)”という表現を使う人がいるが、最近の美人局の例としては男女がつるんで電車内の痴漢をでっち上げるケースなどが該当するのであって、虚々実々の駆け引きの結果をそう捉えるのはちと違うであろう。

それはともかく、二重スパイを巡るお話であるから、ジェニファーの本心も実は解りにくいところがあり、接触の初期段階からアメリカ側に事実を知らせるのも相手を信用させる為の作戦なのか、それとも最初から亡命を狙っていたのか不明で、途中まではそれでOKなのだが、最終結果が“あれ”であるから、僕の理解においては彼女の真意は結局不明のままに終わる。
 それが不満と言えば不満だが、007のような超人型とジョン・ル・カレものの現実型の中間を行くような浪花節スパイ映画としてなかなかがっちり作られていると思う。140分という短くない尺を退屈させないのは大したものだ。

フランシス・ローレンスの監督作品としては「ハンガー・ゲーム」シリーズより技術的に見応えがある。例えば、ヒロインのバレエ場面とエドガートンの捜査場面のクロス・カッティングは断然秀逸で、二か所ほどマッチ・カット風にそれを重ねる辺りが凄い。これは同時に二人がその後接触することを早くも暗示するわけで、映画技術的に鮮やかで唸らされる。

ハニートラップが重要なアイテムなのでエロを強調する紹介文が多いが、実際には即実的な扱いでそれほど煽情的とは言えない。

或いは、現在のロシアなのにソ連時代みたいなお話だと批判的な意見がある。しかし、現実の世界でプーチンの部下たる諜報員が反政府的な言動を行ったりマイナスとして跳ね返ってくる人々を少なからず暗殺しているのはほぼ事実で、恐らく末期のソ連より今のロシアの方が情報当局の活動は激しいと思われる。現実そのものとは言わないまでも、少なくともロシア側はこんな感じなのかもしれない。
 トランプ大統領にロシア疑惑あるかと思えば制裁があり、アメリカとプーチン大統領のロシアとは仲が良いのか悪いのか全く判断できない一方、少なくとも外面的には新冷戦(今年になってからは中国との関係で言われることの方が多いが)の様相を呈している。
 いずれにしても、ジェイスン・マシューズの小説を原作とするこの映画は“ロシアは悪党だ”という立場である。

世界的に独裁者隆盛の傾向があり、ひどく混沌としている。日本もその傾向を免れていないが、改正入管法に関して、安倍支持層が強く反発、独裁傾向に歯止めがかかるかもしれない。

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この記事へのコメント

2018年12月16日 10:35
以前から気になっているジャニファー・ローレンスの初めての映画でした。
ハニートラップを教えている教官がアノ人なのが面白いというか・・(笑)

>彼女の真意は結局不明のままに終わる

僕の読みなど当てになりませんが、彼女には最終地点は見えてなかったのではないかと思います。ただ、叔父の束縛を離れて自由になること、それだけではないかと。

オカピー
2018年12月16日 20:43
十瑠さん、こんにちは。

>ジェニファー・ローレンス
僕は初めて彼女を見た「ウィンターズ・ボーン」が割合好きですね。この映画のせいで、その後単身困難に向かうという役ばかりになった弊害もありましたが。

>最終地点
あの最後が必ずしも彼女が全面的に目指していたものではないとは感じましたが、途中CIAに接近する時の、その折々の真意が後段で解った方が面白くなったかなあと思ったもので。何しろ二重スパイが出て来るお話で駆け引き満載につき、CIA相手に色々と事実を語るのも作戦なのか否か解らないと、理屈っぽい僕はすっきりしなくて・・・。最終局面で母親を連れて亡命しようとした意志は本物と思いました。

>叔父の束縛を離れて自由になること
納得できますね。それで正解と思います。

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