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zoom RSS 映画評「愚なる妻」

<<   作成日時 : 2018/09/23 09:42   >>

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☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1922年アメリカ映画 監督エリッヒ・フォン・シュトロハイム
ネタバレあり

フィリピンのラヴ・ディアスという監督は5時間、6時間という作品を当たり前のように発表しているらしいが、およそ90年前に同じような長さの作品を作ったエリッヒ・フォン・シュトロハイムはそれらをそのまま発表することは許されなかった。製作会社が絶対的な権力を持つハリウッドでは出来ないことであった。今ならディレクターズ・カット版などと称して別バージョンとして発表することが出来るかもしれない。

落ちぶれたロシア系の伯爵シュトロハイムが、従姉妹と称する女性詐欺師たちと組んで、モンテカルロで金を騙し取る作戦を敢行することにする。
 彼はアメリカ公使夫妻の来訪を知り、若く未熟な妻ミス・デュポンに取り入ることにする。偶々大雨で訪れた凌辱のチャンスは神父の登場で挫折するが、カジノで彼女にけしかけて大儲けさせることに成功するや、同情を買って9万フランを無心しようとホテルへ呼び出す。詐欺仲間の女性陣は事前に仕入れた贋札を本物とすり替える作業に没頭中。
 シュトロハイムが公使夫人をだまそうとしているのに嫉妬した下女が部屋に鍵をかけて火を付け、自らは逃げ出して飛び降り自殺をする。伯爵たちは消防団の活躍で救われるが、やがて伯爵は彼に恨みを持つ贋札作りに殺され、下水に流される。

30巻(1巻10分と計算すると5時間)が10巻に短縮されているので、特に後半お話がうまく繋がっていないところが目立つ。端的なのは伯爵の殺害で、殺される理由(娘絡みだろう)やその経緯が解らない為唐突に感じられ、劇的効果を相当損なっている模様。オリジナルの5時間は長すぎるにしても、群像劇的にぐっと凄味のある話だったのではないか。同じ勧善懲悪でもその過程で人間の悪どさがもっと厳然と浮かび上がったのではないか、とないものねだりをしたくなる。

それでもショットの鮮烈さが随所に見られ、火事の場面における火の強烈さと鮮やかなカットの切り返し、或いは下女が自殺を遂げる時に見下ろす波などが特に強い印象を残す。どう短縮しようと、優れた映像の作品であることは否定できない。

ヒロインの読んでいる小説が「愚かなる妻」で、その小説の中味が本編の内容と考えることもでき、虚実入り混じったような綾をなす。脚本として興味深い部分である。

映画ファンでもサイレント映画を敬遠する人が多いが、やはり観ておいたほうが良い作品が30本くらいはある。シュトロハイムでは本作と「グリード」(1924年)がその中に入る。

戦前の送り仮名は現在と多少違うところがあり、当時の邦題は「愚かなる妻」ではなく「愚なる妻」となる。

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タイトル (本文) ブログ名/日時
『愚なる妻』(1921)来るべき『グリード』へと繋がる狂気の完璧主義への第一歩。
 エーリッヒ・フォン・シュトロハイム監督が1921年にユニヴァーサル映画で監督・主演した『愚なる妻』は数年後の1924年に製作された、上映時間が9時間にも及ぶ狂気の大作映画『グリード』に繋がっていく露払いともテスト・パターンともいえる。 ...続きを見る
良い映画を褒める会。
2018/09/23 12:00
『グリード』(1924)シュトロハイム監督の運命を大きく変えてしまった狂気の9時間。
 21世紀も、もうすぐ最初の10年が過ぎようとしている今となっては、エーリッヒ・フォン・シュトロハイムという名前を聞いてもピンとこない映画ファンがほとんどでしょう。僕自身も彼の作品を観たのは『愚かなる妻』『グリード』という二本の監督作品、そして俳優として登場した『大いなる幻影』『サンセット大通り』の二本、合計でも四本でしかありません。それくらいしか観ていない自分がシュトロハイムを語るのもおこがましいのですが、いつまでも逃げていられないので前回の『愚なる妻』と併せて記事にしました。 ...続きを見る
良い映画を褒める会。
2018/09/23 12:01

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コメント(14件)

内 容 ニックネーム/日時
おはようございます!

モノクロかつサイレントとなると現在のテレビ放送環境ではまず放映は望めないでしょうし、TSUTAYAなどでも大きな店以外で置いていることも稀でしょうね。

グリフィス作品の『國民の創生』『イントレランス』などとともに『グリード』は見ておいて欲しいです。食べもしない食事シーンで豪勢な料理を並べたり、好き気ままに撮影をするような放蕩な予算の使い方のせいで累積予算超過が発生し、監督としてのキャリアは断たれてしまう彼ですが、残された作品には大きな価値がありますね。

ではまた!
用心棒
2018/09/23 11:51
用心棒さん、こんにちは。

>現在のテレビ放送環境
地上波では絶対無理ですね。
衛星放送も前世紀は結構やってくれました。実際、今回再鑑賞したこの作品は、昔WOWOWで放映されたものです。NHKも「カビリア」等相当貴重な作品を放映してくれましたが、最近は本当に映画マニアに冷たい。
ビデオを大量に扱っている図書館が一番可能性があるかもしれません。

>食べもしない食事シーンで豪勢な料理を並べ
完璧主義と言う点で、黒澤明やヴィスコンティの上を行く監督だったかもしれませんねえ。しかし、そういう贅沢は実際には無駄ではなくどこか画面に残り、優れた作品になっていくものと思います。

オカピー
2018/09/23 22:34
こんばんは!

これからの若い映画マニアを目指す猛者にはせめてチャップリンの『黄金狂時代』『街の灯』、グリフィスの『イントレランス』『散りゆく花』、ブニュエルの『黄金時代』、シェーストレム『霊魂の不滅』、ムルナウ『ノスフェラトゥ』、フリッツ・ラング監督『メトロポリス』、シュトロハイム監督『グリード』、エイゼンシュテイン監督の『戦艦ポチョムキン』の10本だけでも見ておいてほしいなあと願っております。

映画のアイデアの源泉はこれらにほぼ出尽くしていますので、根っことして知っておいてほしいですね。

ではまた!
用心棒
2018/09/24 20:14
用心棒さん、こんにちは。

大体そんなところでしょうね。アベル・ガンス「鉄路の白薔薇」やムルナウ「最後の人」あたりも凄く、プラスに加えたい。

>映画のアイデア
映画の内容も作り方ももう限界。フィリピンのラヴ・ディアスという監督は、商業映画の縛りを全く取り払っている作家なので、そういう意味で新鮮でした。彼にとって4時間は例外的に短い作品らしく、10時間を超える作品もあるらしい。シュトロハイムと違うのはお金をかけていないこと。フィルムではないので、相当有利ですね。

いずれにせよ、新しい作品よりサイレント映画を観た方が余程刺激的でしょう。サイレントでなくとも1930年代の映画ならどの国の映画も面白い。
オカピー
2018/09/24 22:30
こんばんは!

トーキーが始まったことにより、想像を掻き立てる映像を作れない者はセリフや物語性に頼りきりになり、CGなど技術の発達によって見た目で誤魔化す輩が増え、音楽が入り込むことで相互依存システムが当たり前になり、テレビでの再利用も最初から考えられて製作されるようになり、権利と放送コードだけを満たすクズが幅を利かすようになっています。

>プラス
コメント入れてから気づいたのですが、たしか『黄金時代』はトーキーですねwww
それだとあと一作はガンスの『鉄路の白薔薇』か『最後の人』でしょうね。ガンスは『ナポレオン』でのトリプルエクランにも驚きました。ムルナウの『最後の人』って、たしか字幕自体も最後に付くだけで、全編映像だけで物語を伝えるというとんでもない作品だったと記憶しております。

話は変わりますが、来月関西では名画座であるシネ・ヌーヴォで小津作品の集中上映がありますが、残念ながら時期が入院とバッティングしてしまい、観に行けません。

1941年の『市民ケーン』が映画の到達点かもしれませんwww

ではまた!
用心棒
2018/09/26 01:05
用心棒さん、こんにちは。

>想像
音が付き、カラーになり、想像力で補うところがなくなると、必然的に映画芸術から遠のきますね。
 高校の時に“感情を表す単語を使わずに読者に感情を覚えさせる作文を書け”と出題されたことがあります。映画の基本もそれと同じようなものでしょう。

>CG
僕は今世紀の初めからCGが観客から想像力を奪い、作品の質を落とすと言って来ましたが、凡そそういう感じになっています。
 CGがそもそも絵であることを感覚的に解っていない人が多いのも気になりますね。実際には、「鉄腕アトム」のアトムが空を飛ぶのを見て凄いと感じているようなもの。CGは映像美を楽しむ映画ファンにとって映画をつまらなくしました。

>『黄金時代』
そういう勘違いは、ままありますね。まして『黄金時代』は画面の力が凄いですからねえ。

>『最後の人』
恐らくサイレント長編の中で最も寡黙な作品ですね。これはDVDを買いました。

>入院とバッティング
それは残念ですね。小津はデジタル・リマスターされて恵まれていますなあ。十月にNHKが三本リマスター版を放映します。成瀬巳喜男とか木下恵介とか、やってほしい監督や作品はいっぱいありますがねえ、そういうわけにも行かないらしい。

>『市民ケーン』
そういうことになるでしょう。カラーというだけで芸術度が低いと思うのは僕らの悪い癖なんでしょうが、映像の力という意味で『市民ケーン』に及ぶ作品はそうないですね。
オカピー
2018/09/26 22:14
こんばんは!

>芸術度
規制や制約が多い方がそのなかで最適な表現を探るでしょうから、より研ぎ澄まされた作品が出来上がるかもしれません。絵画ならば水墨画でしょうし、格闘技ならばボクシングでしょうね。

>ケーン
これを超えるのは無理でしょうね。でもどこかにこれを越えたモノを見てから死にたいなあとも思いますwww

ではまた!
用心棒
2018/09/26 22:30
用心棒さん、こんにちは。

>規制や制約
規制で僕がよく引き合いに出すのは、日本のポルノ映画です。ロマン・ポルノ出身には優れた作家が多いですよね。
 規制は歓迎できませんが、制約は必ずしも悪くないです。

>これを越えたモノを見てから死にたいなあ
僕も右に同じですが、最近は諦観が先行して、まだ読むべき古典が残っている読書のほうに期待していますね。読書も新しい作品には余り期待していませんが。
オカピー
2018/09/27 22:20
こんばんは!

>ロマン
角度や構図、静(作家性が出せるドラマパート)と動(肉欲爆発)とのバランスは物語の枠組みを作り上げる練習になります。お金を使って、本来の自分が撮りたいものをねじ込んでいく過程は楽しかったでしょうね。

>諦観
冥土でシュトロハイムやヒッチコックに会って、映画のお話を聞きたいですねえwww

ではまた!
用心棒
2018/09/29 00:39
用心棒さん、こんにちは。

ロマン・ポルノは、男女優が股張りなるものを陰部にしていたので、ボカシも本当は必要なかったわけですが、勿論それが画面に映し出されてはダメなわけで、アングルでそれを見せないようにし、それでいて(AVと違ってそれほど直接的ではないにしろ)性的興奮も喚起しないといけなかったわけでしょうから、想像力を発揮させる演出力が必要とされたでしょう。「櫻の園」中原俊、「遠雷」根岸吉太郎など本当に優れた作家が多い。

>諦観
僕らが話すと、いつも結論がそこに行きますね(笑)。
もう年ですな^^;
オカピー
2018/09/29 20:43
こんばんは!

>結論
まあ、持病もありますし、人生の折り返しも過ぎ、残り少ない我が人生ですから、少しでも楽しい映画だったり、好きなビートルズやロックにクラシック、たまにジャズ、そして昔読んだ小説などを読み返したり、投資理論などを読むのは楽しいですよ。

ではまた!
用心棒
2018/09/29 22:56
用心棒さん、こんにちは。

>ビートルズ
僕も色々なジャンルを聞いています。殆ど古いのばかりですけれどね。
昨年辺りから思いついて、小学から高校時代を過ごした昭和40年代に流行った歌謡曲を独自に編集して聴いています。懐かしくて時々涙が出てきますよ。昭和40年代が丁度日本の歌謡曲がピークに達した時代ではないですかね。

本は大半がまだ読んでいない古典、大古典が多いのですが、昔読んだ小説などもその中に織り交ぜています。中学・高校生で夏目漱石や森鴎外、ドストエフスキーの真価が理解できたとも思いませんから。
オカピー
2018/09/30 18:04
おはようございます。

昨日、無事に退院しました。

色々と入院患者の生き様を見ることになりましたよ。

とりあえず、合併症もなく、またゆっくりと劇場まで出かけたいなあとしみじみ思っています。

これからもよろしくお願いいたします!

ではまた!
用心棒
2018/10/11 08:06
用心棒さん、こんにちは。

何も問題もないようで、良かったですね。

>入院患者
僕も9年前に24日間入院したので凡そ想像が付きます。八十何歳かのおじいさんの話し相手になった時は難儀しましたね。二年後くらいに訃報が新聞に載っていました。

>合併症
僕の膵炎も、合併症があると命にかかわる病気。入院して一週間くらいして、回診の先生が「黙っていたけれど、間違うと死んでしまう病気だったんだよ」と。
同じようにインシュリンが絡む病気で、膵炎から糖尿病を発症することもあるとか。

ではでは。
オカピー
2018/10/11 17:32

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