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zoom RSS 映画評「立ち去った女」

<<   作成日時 : 2018/09/13 09:00   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2016年フィリピン映画 監督ラヴ・ディアス
ネタバレあり

純粋なフィリピン映画は、1980年頃NHK教育で放映した作品の一本くらいしか見ていない。素朴で映画としては何ということもなかった。しかし、この作品の洗練度と馬力には感服した。50年も映画を観ているとちょっとやそっとで吃驚することもなくなるが、久々に驚いた。長回しという点で共通する「旅芸人の記録」と言おうかテオ・アンゲロプロスを初めて観た時の驚きに近い。上映時間も228分と長い。

殺人罪で30年間服役していた元教師の女性ホラシア(チャロ・サントス・コンシオ)が、刑務所で親しくなったペトラの自白により冤罪が証明される。彼女の元恋人ロドリゴ(マイケル・デ・メッサ)が逆恨みして彼女に実行させたと知り、出所後、復讐する為に故郷の島に戻り、レナータと名乗ってロドリゴが暮らす地区に住み始め、彼が教会に参列する時を狙って射殺しようと計画を立てる。
 しかし、その前の夜に暴漢により重傷を負わされたおかまホランダ(ジョン・ロイド・クルーズ)が彼女を頼って訪れた為に計画が頓挫、後日そのことをホランダに告げて「殺人犯にならずに済んだ」と感謝する。彼女の冤罪を知ったホランダは銃を持ち出してロドリゴを暗殺する。かくして島にいる理由の無くなった彼女は、並行してやっていた息子探しを首都マニラで本格的に始める。

長回しでも固定カメラを使うタイプは、対象をカメラが追うのではなく、対象がカメラの中に入ってくる印象をもたらす。無駄と思えるほど長くショットが続くが、シャープなモノクロの画面は力強く、緊張感が途絶えず、圧巻である。これに退屈するかしないかは映画に限らず諸々の対象に対する審美眼による。退屈する人がいても仕方がない。実際、同じ固定の長回しでも諏訪敦彦の作品に僕は美を殆ど感じず退屈してしまうのである。

さて、内容のほうにも注目すべきものがある。僕は、ラヴ・ディアスという監督は、ヒロインの復讐を言わば狂言回しにして下層階級の生態を中心としたフィリピンの実相を点出しようとしたのだと思う。後半非常に重要な役回りをするホランダ以外にも、バロットというフィリピン料理を売る中年男性、知的障害のありそうなホームレスの女マメン(ジャン・ジュディス・ジャビエ)など、個性的な人物が絡んでくる。

しかも、この女マメンがやたらに「悪魔」と連呼するのが内容理解のヒントとなりそうなのだ。本作には善悪が複雑に入り組み、人間を単純に色分けしない。ヒロインはそうした人々に慈善を施しながら殺人を計画している。その対象ロドリゴは悪党を自認しながら善に対する関心が高い。善人になりたいがなれないと神父に告げる。教会も絡み、作者の人間観と宗教観が反映されているように思われる。
 こうした部分は監督の他の作品を観ると鮮明になって来るはずだが、とにかくこの監督にとって4時間未満は短い部類で、6時間を超える作品もあるらしい。観るチャンスがあっても体力のない時には向き合うことはできない。一般的に見ることのできる作家の中では殆ど例のないタイプと言って良いのではないか。

ドストエフスキーが、アンゲロプロスとタルコフスキーの二人を併せて割った人物に憑依して映画を作ると、こんな作品が生まれる気がする。解るかな?

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