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zoom RSS 映画評「セールスマン」

<<   作成日時 : 2018/09/01 09:52   >>

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☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2016年イラン=フランス合作映画 監督アスガー・ファルハディ
ネタバレあり

絶好調アスガー・ファルハディの新作はやはり秀作である。過去の作品ではやや「別離」に似る。

小劇団に属する俳優夫婦エマッド(シャハブ・ホセイニ)とラナ(タラネ・アリドスティ)は。アパートが倒壊寸前で、急遽別のアパートを演出家に紹介してもらう。しかし、前の住民の遺留品が残っている状態で当惑しながら住み始めたところ、ドアを開けたままでシャワーを浴びていたラナが不審者が彼女を負傷させるという事件が発生する。

一つの事件・案件で関係者が対立・葛藤する様子を描き、そこに人間の人間たる所以を見出すことをテーマとするファルハディらしい設定がかく提示される。巧みである。

犯人は慌てて小型トラックを残して逃げ去る。しかし、ラナは警察には通報しないと言う。
 日本でも女性であれば躊躇するであろうが、男女差別が日本の比ではないイスラム教の国ではなおさらである。イスラム教下では被害者であっても女性が罰せられることが多いのである。この作品でも夫が罪の意識なく男女差別の愚を犯している。その事実を知らないと、“ヒロインにイライラ”に終わってしまう人が出て来る。イスラム独自の問題を別にしても女性の心理を理解しないといけませんがね。

とにかく、夫君はそれで二進も三進も行かなくなり、独自に調査を開始し、遂にトラックの持主を突き止め、仕事と偽っておびき出す。やって来たのは持主の義父になる予定の老人なのでがっかりするが、足を調べてみると負傷している。かくして老人が犯人と知るが、老人が心臓病を発症して倒れる。エマッドは老人が家族に告白しない限り帰さないと宣言したものの、この一件で立場は逆転、老人が告白すれば彼は老人の生命を危うくしたことを逆に責められるはずである。息を吹き返した老人は階下に降りる途中再び倒れる。

夫婦が演っている芝居がアーサー・ミラーの「セールスマンの死」である。実は今年の春読んだばかり。このタイトルからミラーの名作を思い出したが、正にそのものだった。
 一見本編と無関係に見えるものの、劇中劇と本体は二重に関係していると思う。一つはかつての栄光を失って死ぬ事によって辛うじて栄誉を保つ老人の存在である。夫婦が引っ越した家の前の住人は老人が関わっていた娼婦で、彼女を追い求め部屋に寄った老人はムラムラして見知らぬ女性を襲って負傷させる。それを家族に知られれば不名誉極まりなく、恐らくその恐怖の為に老人は死に、結果的に名誉を保つのであろう。かの戯曲のセールスマンも死により辛うじて名誉を保つ。また、「セールスマンの死」には息子が父親を出張先に訪れ娼婦といるところに遭遇する場面があり、関係している。
 もう一つは、エマッドが演じる老人と妻の関係は彼が今後迎えることになるかもしれないという孤立化しがちな老人の普遍性を表現し、エマッドもそうならないとは限らないということである。老人の孤独は「セールスマンの死」のモチーフの一つである。

ファルハディはミステリー趣味を有効に使い、人間存在の深奥を興味深く見せることに長けてい、今回もその部分が十分発揮されている。いつもながら巧い。

しかし、イスラム教圏でも急激に女性への扱いを変えようとする国が増えてきた。チュニジアでは憲法が宗教の上に置かれた印象があるし、経済上の理由による(とは言え)サウジの皇太子の英断を聞き、二、三日前の新聞によると、エジプトでセクハラはいけないという判断が出ている。

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セールスマン
イランの首都テヘラン。 若き教師エマッドと妻ラナが暮らすアパートが、倒壊の危機に晒される。 地元の小さな劇団に所属する二人は、劇団仲間の紹介で賃貸物件に引っ越すが、そこには前の住人である女性の荷物が大量に残されていた。 ある日、その家でラナが正体不明の侵入者に襲われてしまう。 ラナは心身共にダメージを負い、エマッドは犯人探しに奔走することに。 ある日、犯人と思われる一人の男が浮かび上がった…。 サスペンス。 ...続きを見る
象のロケット
2018/09/20 05:47

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