映画評「未来よ こんにちは」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2016年フランス=ドイツ合作映画 監督ミア・ハンセン=ラブ
ネタバレあり

哲学教諭が主人公ではあるし、哲学に疎い日本人に受けないのはむべなるかな、という作品である。

高校で哲学を教えている初老の女性教諭イザベル・ユペールは、学校のストに遭っても颯爽と授業を始める格好良さを誇るが、認知症が入っているのか繰り返される老母の狂言にうんざりしている。息子と娘とはさほど悪くない関係であるが、彼らは父親(つまり夫)の方を好いているかもしれない。
 ある時その夫で哲学教授アンドレ・マルコンから愛人の存在を打ち明けられ最終的に離婚する。子供たちが自立した後、養老院に入れていた母親がやがて亡くなる。
 かくして始まった自由は、しかし、孤独を伴い、猫アレルギーのはずが、母親の残した大猫が孤独を癒す重要な存在になる。アナーキストの仲間たちと共同生活を続けるハンサムな愛弟子ロマン・コリンカの許へ、猫を伴って遊びに行ってみたりもする。
 出版社からは監修する哲学教科書が古臭いと遠回しに否定され、アナーキストたちも行動が伴っていないと彼女の生き方には否定的。些か衝撃を受けるが、娘の生んだ孫が新たな希望となると、大猫を欲しがる愛弟子に譲る。

色々と出て来る哲学は重要で、知っていた方が遥かに楽しめるのは確かであるが、知らなくてもそれほど問題にはならない。僕が先日邦画「家族」で述べた考えとよく似る、彼女が授業で説き恐らくは自分自身に向けた「希望があれば生きていける」という哲学的人生訓が把握できれば良いだろう。

とにかく、高校であそこまで抽象的で難しい哲学を勉強させるとはさすがフランスでござる。<(大学で)哲学を教えるな>というのが我が国の方針らしいから、益々差が付く。この映画自体はさほど難しくないが、先日の「ハーフネルソン」のように哲学をベースにした映画を理解する人が減ってくる。
 案の定日本での評価は低い。かく言う僕も、基本は大衆映画のファンであるから、余りに(文学用語でいう)自然主義的映画を非常に面白いと思うことはさほどなく、哲学絡みは興味深いにしても、中年インテリ女性の日常と心理の推移を捉えるこの作品を“面白い”と持ち上げることはできない。

が、作品としてはなかなか立派で、一種の映像詩、謂わば生活映像詩とでも言うべき境地は評価してしかるべし。フランス人だが北欧系らしい女性監督ミア・ハンセン=ラブの作品。

昨今の政治家・官僚は、実学をやれば日本の発展に役立つと思い込んでいる。時間がかかる基礎科学の研究も役立たないと思い込んでいる。しかし、世の中はそう単純なものではない。ノーベル賞を受賞した日本の科学者は逆に日本の未来を非常に危惧している。日本語ではなく英語ばかりに力を入れようとしているのも、視野狭窄に陥っているのではないか。

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