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zoom RSS 映画評「ムーンライト」

<<   作成日時 : 2018/03/13 08:31   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2016年アメリカ映画 監督バリー・ジェンキンズ
ネタバレあり

アカデミー賞の趣味も大分変ってきて、「ハクソー・リッジ」「ラ・ラ・ランド」ではなく「ムーンライト」が作品賞を獲得した。1990年代以前に限れば「マーティ」(1955年)の地味さが目立つが、昨今は以前に比べると華美・地味に受賞要因の差はなくなっているように思われる。

無名戯曲を基にした3部構成だが、人物が固定カメラによらないミディアム・ショットで撮られることが多いこともあって、映画のムードは寧ろ小説的ですらある。その中では第3部がかなり演劇的かもしれない。

第一部は“リトル”という章タイトル。舞台はフロリダ。主人公シャロン9歳(アレックス・R・ヒバート)の綽名である。
 少年はヤク漬けの母親(ナオミ・ハリス)を嫌っているため精神的な逃げ場がなく、いじっめ子に追われて思わず廃墟に逃げる。ここでヤクのディーラーであるフアン(マハーシャラ・アリ)に助けられ、以降母親より彼とその恋人テレサ(ジャネール・モネイ)を頼りにすることになる。

第二部のタイトルは“シャロン”で、彼は高校生になっている。少年が虐めらる主な理由は子供時代から同性愛傾向である。本人はしかと気づいていないのが珍しく、唯一の友達ケヴィン(ジャハール・ジェローム)との話している時にちょっとした性的な肉体接触をしてしまう。やがていじめっ子がケヴィンをけしかけてシャロンを殴り倒させ、最後に集団で袋叩きにする。内向的なシャロンもさすがに怒っていじめっ子のリーダーを机で張り飛ばす。彼はこれで少年院行きになる。
 シャロンが何も言わなかったからとは言え、最初の加害者はお咎めなく、怒った被害者が少年院行きとは何ともやるせない。この章で僕が一番考え込んだのは、シャロンがいじめっ子を張り倒した本当の理由である。単なる仕返しということかもしれないが、いじめっ子が親友実際にはそれ以上の存在であるケヴィンに自分を殴らせたことにあるような気がするのである・・・彼の怒りがケヴィンに向かわなかったからには。複雑な心理が働いているように思う。

第3部は少年院を出て暫く経ったアトランタでのシャロン。章タイトルは“ブラック”。ケヴィンが彼を呼ぶ綽名である。
 少年院の先輩から悪の道に誘われた彼は、かつてのフアンとそっくりの麻薬ディーラーになっている。麻薬以外に犯罪と縁のなさそうなところもそっくりである。そんな彼へ、やはり少年院経験のあるケヴィン(アンドレ・ホランド)から電話がかかってくる。彼はシェフ兼何でも屋として食堂に真面目に勤めていると言う。後日食堂を訪れたシャロンは、自分が触れさせた相手はケヴィン以外に誰もいないと告げる。ケヴィンは初恋に似た彼の純情を知る。ジ・エンド。

黒人であるかどうかは作品の価値に関係ないが、黒人のLGBTが主題となる映画は初めて観ると思う。特にいかめしい見かけによらない青年シャロンのロマンティシズムが新鮮である一方、同性愛絡みの作品は滅多に心(しん)から好きになれない。ほぼ唯一の例外はアン・リーの話術に脱帽するしかなかった「ブロークバック・マウンテン」。本作は僕の苦手なウォン・カーウァイの「ブエノスアイレス」に似たねちっこい感じが悪い方に左右してかの作品のようには行かない。
 本作はそこに留まらず、黒人が陥りやすい環境における負のスパイラルに言及する。それを象徴するのがフアンとシャロンの相似である。やりきれないものがあるが、僕らにはどうしようもない。

画面は全体的によく計算されていて、特に水面に近いところからフアンがシャロンに泳ぎを教えている(?)のを捉えるショットを筆頭に、優秀と言える出来栄えと思うが、冒頭のアントニオーニもどきのショットなどやり過ぎのところもある。
 クラシック若しくはクラシックを基調にした曲を多用し、そこへ現実音に近い形でラップや昔のポップスを交える音楽はなかなか充実していて、印象深い。

シャロンと聞くと女性みたいだが、綴りと正確な発音が違うようだ。

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「ムーンライト」
いろんな人生があるものだと。 ...続きを見る
或る日の出来事
2018/03/13 08:53
『ムーンライト』('17初鑑賞29・劇場)
☆☆☆★− (10段階評価で 7) 4月1日(土) 109シネマズHAT神戸 シアター5にて 16:40の回を鑑賞。 字幕版。 ...続きを見る
みはいる・BのB
2018/03/13 14:50
「ムーンライト」☆何も語らずに多く語る
詳細は何も説明しない,、主人公もほとんど言葉を発しない・・・・・なのにこんなにも多くの事を語ることが出来るなんて!! アカデミー賞作品賞だから「良い」のではない。 この作品だからこそアカデミー賞作品賞に相応しいのだ☆ ...続きを見る
ノルウェー暮らし・イン・原宿
2018/03/14 16:03

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
 >アカデミー賞の趣味
確かに以前と変わってきていますね・・それを象徴するのが、今回の作品賞の「シェイプ・オブ・ウォーター」でしょう!(なにしろ、オスカー初の“怪奇怪獣映画”による作品賞)
僕の大のお気に入りだった「パンズ・ラビリンス」のギレルモ・デル・トロ監督本人も、まさか自分の映画がアカデミー賞取れるとは思わなかったでしょう・・。
また、55年の、「マーティ」は別の意味で異色、アーネスト・ボーグナインは、本当に良かったですね!数多ある作品賞の中でも突出して地味ですが好きな作品です・・。

「ラ・ラ・ランド」は、観終わった後のほろ苦さも含めて、全体的にアベレージな作品でした。
vivajijiさんとプロフェッサーのやり取りを読んで思うことは、これに素直に凄いといえる日本の若者は幸せなのかなぁ・・と(笑)
プロフェッサーほどではないですが、古きよきMGM作品を幼いころからテレビ(主に吹き替え版)で観てきた一人としては複雑な思い・・。

 さて、この作品ですが、青春映画、恋愛作品として観ても、マイノリティーの幸福を模索する悲哀をエンターテイメントとして見事に仕上げた「X−MEN ファースト・ジェネレーション」に及ばない・・。
けれど、3人の顔を重ね合わせたポスターのセンスはマーベラス級!
リレーで夫々の世代の主人公を演じた俳優陣も秀逸な演技でした。
台詞による状況説明を少なくしたせいで、ぼくの周囲の映画好きの人たちの評判は、芳しくなかったですが・・。
浅野佑都
2018/03/13 15:38
浅野佑都さん、こんにちは。

>「シェイプ・オブ・ウォーター」
アカデミー会員にもリベラル化が進んでいるのかもしれませんね。とにかく多様性を求めている感じ。
 「ムーンライト」が受賞したのは、前年の演技賞候補に黒人がいなかったことへの批判の反動かもしれませんね。

>「マーティ」
アカデミー賞史上最も地味な作品でしょう。「マーティ」は良い映画とは思いますが、今ならともかく、当時としては異様。しかし、凡作「慕情」が候補に挙がって「エデンの東」が候補にすら挙がっていない。これも異常。

>日本の若者は幸せなのかなぁ
多分これが1990年代に作られていたなら、一般映画ファンには全く評価されなかったかもしれません。その間に僕らが余り評価しなかった作品が積み重なって一般ファンがミュージカル慣れしたことが奏功したかもしれません。
 しかし、「ラ・ラ・ランド」が本格的であればこそ、「シカゴ」では僕が敢えて無視した弱点が気になりましたねえ。

>人の顔を重ね合わせたポスターのセンスはマーベラス級!
印象的なポスターですね。
 単独で見ると余り似ていないように見える三人が、合わせると一人のように見える。変な風に感心しました。

>台詞による状況説明
映画サイトを訪れると「説明不足」の言葉が踊っている昨今。厳密には説明不足とは言えない作品に対してもよく見ます。
 行間が読みながら見られる映画の方が楽しめないとしたら、それ自体が寧ろ大問題であるような気がしますね。
オカピー
2018/03/13 22:37

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