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zoom RSS 映画評「人生タクシー」

<<   作成日時 : 2018/03/01 09:56   >>

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☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2015年イラン映画 監督ジャファル・パナヒ
ネタバレあり

オフサイド・ガールズ」(2006年)というイスラム社会の女性を描いた作品が興味深かったイランのジャファル・パナヒ監督の新作。

パナヒ本人が演ずるパナヒが運転するタクシーに、様々な人々が交錯する。自称路上強盗が“窃盗犯は死刑にすべきだ”と言うと、乗り合わせた女性教師が“死刑では犯罪は減らない。原因を取り除くのが先決だ”と反論する。トルコ映画「雪の轍」の善悪論議に通ずる内容で、まず“善悪”という布石が置かれる。

本作の最大の特徴は、映画を進行させながら、映画撮影禁止を言い渡されている映画監督パナヒの現状と映画論が繰り広げられるメタフィクションであるということである。
 僕らがそれを知るのは、海賊版DVDを売る男が監督を知っていて彼の現状を嘆く台詞があるからで、彼がピックアップする“映画”撮影中の小学生の姪を通してイランにおける映画への検閲の詳細が事実上明らかになる流れと続き、映像に対する作者の興味が映画全体の通奏低音になっている。

その中でも序盤で問題になった“善悪”に触れられ、イランの検閲下では市民を管理する国家にとって都合の悪いことは全て悪と見なされる。少女が、自分が撮っているビデオ・カメラに少年が拾ったお金をネコババする様子が入ると“公開できなくなってしまうから、お金を返しない”と言う辺り実に皮肉な可笑し味が出ている。少女が偶然に撮影した内容が、学校即ち国家の言う【俗悪なリアリズム】に相当するもので、“臭い物に蓋をする”精神へのアイロニーが込められている。
 僕も嫌な後味を残すリアリズムについては否定的になって良いケースもあると思っているが、同時に不快なこと、不快を催すことは何も見せないという嘘はいけないと考える。結局はバランス感覚である。

善悪の問題に関してはイランの社会問題を内包しているのだが、そうした本作の要素が全て集中するのが幕切れで、これがスーパーに素晴らしい。
 つまり、彼が老婦人の置き忘れた財布を届けに車を空けた隙に車に搭載していたビデオが泥棒に盗まれ、その瞬間に映像が切れる、即ち映画が終る。イランの貧困の厳しい実相を映す描写が、作者の立場を綴ってきたメタフィクションの終わりを宣言する。“これは上手い”と膝を叩いた。この作品はパナヒが撮影禁止の中で撮られた大変反骨的なもので、イラン映画として公開されたことに意義がある。

文学と映画を愛する人間として検閲は許しがたい。しかし、“表現の自由”を錦の御旗に他人を苦しめるのも良くない。そもそも“憲法上の自由”は個人の(国家)権力からの自由を言うのであって、個人間の話ではないはずだ。

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