映画評「ニュースの真相」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2015年オーストラリア=アメリカ合作映画 監督ジェームズ・ヴァンダービルト
ネタバレあり

再選前に起きたブッシュ(ジュニア)大統領の軍歴問題は日本でも話題になったので憶えている。結局大統領は再選を果たしたが、その後のことはこの作品が教えてくれる。

CBSの名物番組“60ミニッツ”の女性プロデューサー、メアリー・メイプス(ケイト・ブランシェット)は、再選を目指すブッシュ・ジュニアが入隊した当時の疑惑に関する証言を退役軍人のビル・バーケット(ステイシー・キーチ)から得、文書の信憑性を専門家により確認した上で、スクープとして報道するが、すぐに文書の書かれた時期に疑いが生じる。結局、CBSの内部調査でメイプスは首になり、報道をした名キャスターのダン・ラザー(ロバート・レッドフォード)も降板することになる。

ラザーは言う、「(権力者に)質問する勇気を持て、しなければ国は亡びる」と。我が国の加計問題で読売新聞の記者が問題喚起に寄与した前川氏に「秘密保守義務違反ではないか」とジャーナリストにあるまじき問いをした。記者は様々な弊害を突き破って真相を追い求めるのが仕事である。ジャーナリストとしてのスタンスが問題なのであって、読売が政権寄りかどうかは関係ない。池上彰氏はこの記者に呆れたが、ラザーも嘆くことだろう。
 個人的に、TV局の報道に特段の不満はない。一部右派はTV局や左派系新聞について「嘘を言っている」と批判するが、僕はこれは自分たちの機関紙以外の全ての新聞は嘘をついているとしたヒトラーの思想の模倣と思っている。トランプもヒトラーもどき。この類を発言する人物は独裁者たる要素たっぷりである。対立する思想の法人・自然人に対して「嘘(フェイク)」を多発する人間こそ嘘を言う。これは人間の傾向である。

本作に戻る。メイプス本人の自伝がベースになっているので、ラザーだけでなく彼女が格好良く捉えられているのをどうかと思う向きもあるかもしれないが、彼女は挫折したのだからその辺りは「行って来い」といったところだろう。「問題に疑惑が湧くことで、問題の本質がずれていく」という彼女の指摘は加計問題にも実際に見られたように思う。かように本作にはジャーナリズムについての色々の問題を提示した内容になっていると同時に、サスペンス映画としてもなかなか楽しめるように設計されている。

しかし、何と言っても、日本人の僕が羨ましいと思うのは、こういうスキャンダルを実名で映画化できる欧米諸国のお国柄である。日本では批判的な内容でなくても実名で映画化などなかなかできない現状があり、つまらないこと甚だしい。政治や官僚のスキャンダルでは山崎豊子や石川達三の小説の映画化があるが、それも実話をモデルにしたフィクションとして逃げているので、どうにも不満なのである。良くも悪くも日本人の他人に配慮する精神性が大いに発揮されている現象で、僕はこれを脱却する時日本人が一段と進歩したと言えると思う。

映画について殆ど語っていないのは恐縮でござる。ケイト・ブランシェットがさすがの迫力、と言って締めることにしましょう。

しかし、火のない所に煙は立たぬ、とも言うからね。多分、CBSの筆頭株主がブッシュ政権寄りで、軍歴問題をつぶしてジュニアの再選を後押ししたのだろう。

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  • 「ニュースの真相」

    Excerpt: 追い詰められる。ケイト・ブランシェット扮する報道ジャーナリスト、メアリー・メイプルが取材対象を追い詰め、メアリー・メイプルが為政者が発した力により追い詰められる。真実とは何か?ただそれを伝える使命を糧.. Weblog: ここなつ映画レビュー racked: 2017-08-28 12:35
  • ニュースの真相 ★★★・5

    Excerpt: 2004年9月、米CBSの看板報道番組『60ミニッツII』では、再戦を目指すジョージ・W・ブッシュ大統領の軍歴詐称疑惑という一大スクープを特集するが、根拠となった証拠に偽造の疑いが浮上し、一転して番組.. Weblog: パピとママ映画のblog racked: 2017-08-28 18:29