映画評「白鯨との闘い」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2015年アメリカ映画 監督ロン・ハワード
ネタバレあり

子供の時ハーマン・メルヴィルの「白鯨」を読んだ時「アメリカが歴史上一番クジラを獲った国」という知識を得た。その時代はまだ日本が捕鯨で責められることはなかったが、後年グリーンピースやらシーシェパードやらが捕鯨を問題視、アメリカを中心に国家絡みで捕鯨国を糾弾するに至って「自分たちのことを棚に上げて、しかも油しか取らなかったのに」と怒りに駆られた。協定を守って行われている現在の日本の捕鯨は何の問題もないと思う。

話変わって、比較的最近完全版の「白鯨」を読んで驚いた。小学校時代に読んだお話は全体の数分の一程度で、その合間合間にクジラに関する蘊蓄がこれでもかこれでもかと百科事典的に出て来て、すっかり辟易してしまったのである。

本作は、メルヴィル(ベン・ウィショー)が「白鯨」を書く素材となる実話を生存者ニカーソン(ブレンダン・グリースン)から聞き出すという形式で進行、二カーソンが30年ほど前(1820年ごろ)捕鯨船エセックス号に乗り込んだ時(少年時代はトム・ホランド)の経験を語ろうとしない理由がまず興味をそそり、それが明らかになるまで19世紀初めの捕鯨風景をCGでダイナミックに描くことが眼目となる。TVで観ると却ってクジラなどが見え見えのCGなので、存外興奮させられなかった。

中盤エクアドルで知り合った船長から白鯨(シロナガスクジラ? 19世紀前半当時は知られていなかったらしい)の存在を聞いて西に向かうことにしてから大きくお話が転換、白鯨に襲撃されて船が沈没し、ボートで太平洋を漂流することになり、飢えとの闘いが始まる。
 これが二カーソン氏が長いこと口を噤んできた理由である。一言にまとめると、「白鯨」のモデルとなったお話は結局「ひかりごけ」事件であった、ということだ。「ひかりごけ」事件とは、北海道の船長が飢えをしのぐ為に船員を食べた事件である。武田泰淳がこの事件をモデルに書いた小説「ひかりごけ」は宗教に近い文学性に横溢していて、白鯨を神聖化するような印象を伴う本作との間で、共鳴し合うものがある。

結局クジラを仕留めなかった一級航海士チェイス(クリム・ヘムズワース)は生還した後商船の船長に転身、坊ちゃん船長だったポラード(ベンジャミン・ウォーカー)も審問会で事実を語り、最終的に海運業からリタイアする。ここにクジラの神性が大きく表れている。まあ現時点では宗教的な立場からの反捕鯨と読み取れる内容であるが、少なくともシーシェパードのような感情的な反捕鯨論ではないと思って良いだろう。

ロン・ハワードはいつも通りきちんと展開させてさすがの安定感と言うべし。僕の趣味では秀作とは言いにくいものの、一見の価値はあるだろう。出来れば映画館がベターだが、今名画座なんてものはあるのだろうか?

鯨を獲るのはいけないとして捕鯨関係者を害するのは、生命の尊厳という点で矛盾ではないだろうか。人間を生命のトップとするのが気に入らないらしいが、「クジラを守る」という発想自体が人間の奢りのように思われる。

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