映画評「黄金のアデーレ 名画の帰還」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2015年イギリス映画 監督サイモン・カーティス
ネタバレあり

同じ時期に似た素材の作品が作られるということはよくあるもので、本作は先日の「ミケランジェロ・プロジェクト」と同じくナチス絡みで奪われた絵画を巡る実話もの裁判劇である。

1998年、60年ほど前にオーストリアから米国に亡命したユダヤ女性マリア・オールトマン(ヘレン・ミレン)が、亡くなった姉が叔母を描いた絵画をオーストリア政府から取り戻そうとしていたことを知り、その遺志を継ごうと、知り合いの若きユダヤ人弁護士ランディ(ランドル)・シェーンベルク(ライアン・レーノルズ)に協力を仰ぐ。
 しかし、その絵画が余りにも有名な、オーストリアにとっては国宝とも言うべきクリムトの「黄金のアデーレ」であり断固拒否する構えを見せた為、彼女たちは法外な裁判費用がかかる祖国ではなく、国際法の要件を満たしていることを確認した上で、アメリカでオーストリア政府を相手に訴訟を起こす。

お話の骨子は以上のように頗る簡単なものであるが、裁判の合間に挿入される回想場面の効果が絶大で、僕は非常な感銘を受けた。その過去が、大陸欧州から毎年輸入されるホロコーストものような悲惨さが薄く、割合軽妙な台詞などで苦味が薄められているが故に却って、ナチスのユダヤ人狩における人間性の問題、生の尊厳、死の尊厳について思いを馳せてみようという気分を盛り立てるのである。

差別・いじめの類が大嫌いな僕はやるせなく、義憤に駆られてたまらない。今更ながら、こんなひどいことが人類が大分熟してきた20世紀の先進国で起きたとは信じがたい思いさえする。しかし、実際に起きたことなのである。民族差別・民族紛争がある限り、ホロコースト映画は永久に作り続けられるだろう。

全体として大衆的で勿体ぶらない作りが受けたらしく世間で好評なのが嬉しく、不評を放つ少数派は余りに高級なものを求めすぎているような気がする。

天の配剤が極まり、ヒトラーがユダヤ人を迫害した為に、ドイツは恐らく一番の眼目である欧州征服に失敗した。第1次大戦で効果を発揮した毒ガスはユダヤ人が開発したものであるし、恐らく彼らがいれば原爆をアメリカより早く完成させたのではないだろうか。兵士としても活躍したであろうに。
 そして人類はこの苦い経験を経て一段の進歩を果たした。現在少し逆行気味ではあるが、地球規模のロスを考えると、先進国同士が戦前のような状況に陥ることはないであろう。怖いのは制御できないテロリストである。

【風吹けば桶屋が儲かる】式に言えば、ヒトラーがユダヤ人を排斥した為日本は原爆を落とされた、ということになる。

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