映画評「草原の実験」

☆☆★(5点/10点満点中)
2014年ロシア映画 監督アレクサンドル・ノット
ネタバレあり

ロシアには時々アンドレイ・タルコフスキーのような映画作家が現れる。本作を作った若手アレクサンドル・コットもそんな監督になっていくのではないか。

本作で驚くのは台詞が全くないこと。長編ドラマではサイレント時代のドイツ映画「最後の人」(1924年)以来ではないだろうか。昨日Youtubeで見た1926年の邦画「狂った一頁」も台詞字幕がなかった。あるいは、両者とも台詞はあるが字幕がなかっただけかもしれない。本作では台詞そのものがなく、全くビックリさせられる。従って非常に解りにくいわけだが、終わってみればその流れが判ってくる。

モンゴルと似ているカザフスタンのだだっ広い草原の一軒家に父親と美少女(エレーナ・アン)が暮らしている。父親は終始どこかへ行き帰ってくる。娘の周りに白人の若者が現れ、昔から彼女を慕っている現地の若者と諍いが始まる。彼女は白人の若者が好きになったらしい。父親が亡くなった後二人は新しい生活を始めようとする。しかし、そこへ核実験によるきのこ雲が発生し、全てを破壊してしまう。

少女の三角関係は解りやすいが、その合間に挟まれる父親の、或いは父親との描写が解りにくい。しかし、最後のきのこ雲を見ると、彼は核実験に何らかの形で関わっていたことが判る。
 父親はどこかへ行き、ある夜放射能測定器で体を調べられ、病気に倒れ、突然死ぬ。被爆したのであろう。そして父親が向かった方向には鉄条網がある。

突き放したような幕切れのショックは、台詞の排除や爆発音のなさで倍増される仕組みで、ぼんやりと見ていた僕は本当に驚いた。唐突であるが、振り返ってみれば唐突ではない。草原の実験より素晴らしい映画の実験と言うべし。多用される極めてフォトジェニックなロングショット、それも真上からのショットが強い印象を残す。父親の頭と太陽と核爆発の閃光を象徴として重ねているような見せ方も大変面白い。

といった具合に一種の映像詩として記憶に値するが、僕のような大衆映画ファンが素直に喜べるタイプの作品ではないので、水準程度の☆★に留めておくことにする。

ヒロインを演ずるエレーナ・アンは西洋と東洋の面影の両方を併せ持つような大変な美少女。

「誓いの休暇」(1959年)のジャンナ・プロホレンコもそんな美少女だったなあ。今ではあのソ連映画の佳作を知らない人が多いだろうが。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2016年11月08日 00:06
ロシアには凄い美人がおりますね。
NHKの戦争と平和は俳優がアメリカ人のせいかいまいちであります。
オカピー
2016年11月08日 17:48
ねこのひげさん、こんにちは。

ロシア人は太る人も多く、楳図かずおが作品の中で引用していました。

>NHKの戦争と平和
一回目を少しだけ見ました。こりゃ気分が出ていないわと退散しました。

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