映画評「あん」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2015年日本映画 監督・河瀬直美
ネタバレあり

河瀬直美の作品は内容の観念性により生活感情を共有するのが難しい為、カンヌで受けても商業映画的には文句を言いたくなる。しかし、初めてオリジナル脚本から離れてドリアン助川の小説を映画化した本作は原作のおかげで大衆性があり、ぐっと親しみやすい。

どら焼き屋の雇われ店長をしている永瀬正敏が、手が少し不自由な70代の老婦人・樹木希林からバイトに雇ってくれないかと頼まれる。一度断ったものの、他日持ってきた粒あんのおいしさに、即刻手伝ってもらうことに決める。小豆に話しかけ、その声を聞くように労わってじっくりこしらえるその粒あんは好評を博し、売り上げ倍増するが、店の経営者・浅田美代子が老婦人がハンセン病を患っていたことを聞きつけ首にしろと言ってき、やがてその噂が町中が広まって客が訪れなくなる。
 店長は何も言わないが、事情を察した老婦人は店を去っていく。永瀬は、店で老婦人とも親しくなっていた中学三年生の内田伽羅に誘われて、元患者たちが暮らしている施設に彼女を訪れる。店長に採用される前訳アリの人生を送ってきた彼は、物に話し掛けその声を聞くような彼女の人間性と人生とに救われる。

四半世紀前くらいからハンセン病がそう簡単に感染しない病気であることが知られ、本年最高裁までがかつての非を認めた(が、謝罪はしていない)。従って、ここ20年くらいのお話であれば、完治したハンセン病患者から感染しないのは解りきっているので、町民の反応は明らかな偏見だが、そこが人間の弱さである。
 この老婦人は天使のように素晴らしい人で、店長は守るべき人を守れなかった悔しさに涙を流すが、彼女たちにしてみればずっとそういう人生を送ってきたわけで、僕は人間の、浅田美代子演ずる女性のような俗物の情けなさに涙を禁じえなかった。しかし、老婦人は、店長を、そして恐らく母子家庭で高校進学も厳しい少女を精神的に救ったのである。風評の怖さに慄然とする以上に、どんな人生にも無駄はないのだと希望を覚える。

河瀨作品でこういう素直な感想を洩らすことになるとは夢にも思わなかった。純然たるセミ・ドキュメンタリーでもこういうヒューマンな素材に遭えば十分商業映画として通用すると改めて確認できたのも収穫。達者なプロたちにまじえて素人を出してくるのは相変わらずだが、そのスタイルに余り拘泥しない感じになっているのが良い。

僕は断然粒あんが好きです。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2016年07月18日 17:16
ねこのひげも粒あんのほうが好きです。
しかし、たった一人の人間の提言であんな事が起きるのは恐ろしいことです。


オカピー
2016年07月18日 20:23
ねこのひげさん、こんにちは。

>粒あん
マイルドで好きなんですよねえ。

>たった一人
彼は無視したのですけどね。
老婦人が静かに去っていくのが寂しかった。職場に戻ってこないという意味の最後の「さよなら」。
少女の母親が広めた可能性も映画は示していました。

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