映画評「トイレのピエタ」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2015年日本映画 監督・松永大司
ネタバレあり

原作・脚色・監督をドキュメンタリー出身の若手・松永大司が務めたドラマだが、インスピレーションを与えたのはかの手塚治虫ということである。久しぶりに良い青春映画を見た。一応青春映画とくくれる邦画の中でこれほど胸を打つ作品を見たのはいつ以来であろうか。

美大出身の俊才ながら画業を諦めて窓拭きのバイトを続けている若者・野田洋次郎は体調不良で診察を受ける為に病院へ行く。家族同伴ということで呼んだ美大時代の恋人・市川沙耶を怒らせた為に、病院内で高い声で怒りをぶつけている女子高生・杉咲花に妹を演じてもらって報告された診断結果は「胃がん」。何もしなければ余命三か月という。
 認知症の祖母と働きづめで家事を全て任せる母親との生活に苦痛を覚え死を願望する彼女は死の香りのする彼に惹かれてつきまとう。死を望むに反して生を輝かせる彼女に生の希求が増幅させられる彼はしばしば付き合うことになる。

死願望と生願望が磁石のように引き寄せた二人の関係は、確かに一種の恋であろうが、「最期の夏、世界にしがみつくような、恋をした」というキャッチコピーは少し違うだろうという気がする。内容と違うというのではなく、ミーハー層の興味を惹こうとしている印象に違和感があるのである。少なくともデートで見るような映画ではない。

何とか死ねないかと心臓が爆発するまで懸命に走ったり自転車をこいだりする彼女は、彼の眼には、皮肉にも生命そのものであり、小児がんで死んだ子供の母親・宮沢りえと一緒に見たピエタに影響され、彼は病院での治療を辞めた後自宅のトイレに少女に彼自身が抱きかかえられるピエタ(絵自体は非常に仏教的)を描く。そして最後につぶやく、「生きている」と。
 その映像と言葉を助平な中年親爺リリー・フランキーのカメラにより見せられた彼女は、彼が絵を描くことで間接的に残した「生きろよ」のメッセージを汲み取ったろうか。

とにかく、死や生の苦痛を描きながらこれ程の躍動感、これ程の希望を感じさせる監督の画面感覚、作劇力に頗る感服した。こういう日本映画を待っていたのである。

歌手という野田洋次郎のぼーっとしたムード、小柄な体に怒りをため込んだ杉咲花の好演も大収穫。

五月は邦画に二秀作あり。邦画の五月晴れといったところじゃね。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2016年06月06日 10:34
若手俳優にいい役者が出てきておりますね。
ハリウッドで努力している日本人俳優も増えてきているようであります。
オカピー
2016年06月06日 20:12
ねこのひげさん、こんにちは。

最近女優さんに収穫が多い気がしています。
日本の映画人は内弁慶で、韓国映画や中国映画に比べ、IMDbの投票数の少ないこと。もっと売り込まなくちゃ。

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