映画評「さらば冬のかもめ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1973年アメリカ映画 監督ハル・アシュビー
ネタバレあり

いかにも早世したハル・アシュビーらしいヒューマンな作品。主演のジャック・ニコルスンが「カッコーの巣の上で」で評判を得、アシュビーの知名度が上がったおかげで、製作から3年後に漸く日本公開に至った・・・ような記憶がある。

水兵ニコルスンとオーティス・ヤングが、40ドルを盗もうとして8年服役することになった若い水兵ランディ・クェードを刑務所まで送り届けることになる。
 若者はスリや盗みをせずにはいられない一種の病気を患っている一方で、世の中の理不尽に対して怒りを感じない。軍隊生活の理不尽に内心怒っているニコルスンは、この“非常識”な未成年を酒場に連れていき(アメリカでは未成年に酒を飲ますと営業停止を食らう)、日蓮正宗(創価学会と思ったが、違うみたいだ)のミーティングに連れ込んだり、そこで経験できなかった“筆おろし”をさせてやろうと娼館へ連れていく。
 かくして、常識を覚えた為に欲望に目覚めた若者は逃走を試みる。いくら理不尽極まりない社会への反骨心を常識と心得るニコルスンらにしても任務を怠るわけには行かず、捕えて何とか刑務所へ連れていく。しかし、彼らが若者に示した人情は本物で、被護送人への暴力の原因たる彼との逃走劇を伏せて役目を果たすと、年下の“非常識”な事務官に少し刃向かって、帰途に就く。

1970年代大いに流行ったロード・ムービーの一ヴァリエーションで、性体験もしていないのに臭い飯を食らうことになった若者に色々な体験をさせてあげようという親心を示す上官水兵二人の、ややいびつな人情を描くのが見かけの内容である。

見かけとは言っても彼らの交流は楽しく最終的には胸に迫るものがあるわけだが、同時にアメリカン・ニューシネマ期の作品らしく反体制・反権力の意識が底流を成していることにも注目したい。
 しかし、同じ反体制的指向であっても、「イージー・ライダー」(1969年)や「バニシング・ポイント」(1971年)の絶望的な重苦しい空しさと違って、体制に抗し切れない水兵のささやかな反骨表現に過ぎないが故に、後味として感じられるのは軍人とはいえ結局は小市民に過ぎない切なさなのである。
 前二作より時間を経て、当時出口が見えなかったベトナム戦争による閉塞感に対してぼつぼつ生まれだした国民の諦観が反映されているのだろうか、と考えさせられたりもする。

原題はThe Last Detail・・・「最後の詳細」ではなく、「最後の特派部隊」といった意味ですね。アメリカらしい無機質な題名なこと。こりゃ、邦題のほうが良い。

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この記事へのコメント

vivajiji
2016年04月04日 17:46
これは絶対邦題のほうが雰囲気あっていい。
なんとなく物悲しさが底に流れていた話でしたもの。
「特派部隊」がちらとも脳裏をかすめなかった(笑)
拙記事持参しました。いや、懐かしい作品ですわ。
オカピー
2016年04月04日 21:34
vivajijiさん、コメント有難うございます。

適当に選んでいるのに、最近再鑑賞した旧作は、御ブログに紹介済みのものが多いですね。びっくりだ(笑)

アメリカ映画の原題というのは、本当に味も素っ気がないものが多いので、日本の配給会社は色々知恵を絞りますが、結構観客の厳しい意見に晒されておりますね(笑)
この邦題はヒットですね。
ねこのひげ
2016年04月10日 08:05
原題を見ているとアメリカ人は何を基準に映画を観に行っているのかと不思議になりますね。
新聞のドラマ欄にあるように説明しすぎもどうかと思いますけどね。
やっぱり、テレビのCMなんかによるところが大きいんでしょうかね。
オカピー
2016年04月10日 18:59
ねこのひげさん、こんにちは。

欧米人特にアメリカ人はタイトルでは見るべき映画かどうか判断しないようですね。
まあ戦前は「風と共に去りぬ」や「誰がために鐘は鳴る」といった観客の心理に働きかける題名もありましたが、最近は本当に素っ気ない。
今の観客動員はネットによる、口コミも大きいのでしょうね。

>新聞のドラマ欄
ありゃタイトルでなくて、内容説明ですわいね(笑)

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