映画評「くちびるに歌を」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2015年日本映画 監督・三木孝浩
ネタバレあり

ここ15年程洋の東西を問わず新曲を聴かないので、アンジェラ・アキの「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」という曲は合唱コンクールの課題曲として提供された曲であると、何年か前「紅白歌合戦」で初めて聞いた時に知った。中田永一という人がこの曲にまつわるTVドキュメンタリーを見て着想、小説として書き上げたものを学園ものお得意の三木孝浩が映画化。お話は似ても似つかぬものの、僕は現代版「二十四の瞳」だなと思った(実際オマージュらしきカットもある)。

長崎県五島列島の島の中学に、産休する幼馴染の音楽教師・木村文乃の代わりに休業中の美人ピアニスト新垣結衣が臨時の音楽教師として赴任するが、合唱部の顧問もおざなりでテキトーに済ます。音楽の教師なのにピアノを一切弾かない。その訳は、小出しに示されていくのだが、彼女の演奏会に急がせた為に最愛の人を失った一年前の出来事によるトラウマ。
 そんなテキトーさ故に男子生徒が美人先生目的に入部するので、三年生の部長・恒松裕里ちゃんは面白くない。幼馴染に言われ、先生は合唱コンクール県予選で披露する曲「手紙」の内容を心から把握する為に15年後の自分に宛てた手紙を課す。書いてきたのはボーイソプラノの下田翔太君だけ。彼は、重症な自閉症の兄を工場へ毎日迎えに行く少年で、為に部活もまともにできないのだが、兄の面倒を見る為に親が自分を生んだという独自の人生観を持っている。先生はこの段階で「生きていること」に対する意味を少し考え出す。
 裕里ちゃんは、逆に、家を出た父親と自分の為に母親(石田ひかり)が不幸のうちに早く死んだと、自分が生きていることに疑問を持っている。その心情を吐露した少女から音が人に与える慰撫の力を再認識させられた新垣教諭は遂に鍵盤に指を置き、少女から聞かされた汽笛の音(人生発進の表徴)であるドを鳴らす。
 かくして普通の教師になった先生はきちんと指導を始め、やがて県予選当日となる。

この日に木村教諭が急なる出産騒動で見学に来られなくなるエピソードがあるのだが、これはさすがに臭い。各人が触れ合うことで三人のエピソードの重苦しさが雲散霧消していく中での、このエピソードは型に嵌った安易な感動誘発策にすぎる。その後の、自閉症の兄(渡辺大知)が十年ほど前に教会の隅で裕里ちゃんを慰めた母親の言葉を繰り返し、集まった生徒全員が雪崩れ込むように合唱するエピソードが、伏線を上手く生かしてなかなか感動的に作られているのとは対照的。この場面も鼻白ませる可能性もあるが、下田少年が兄を探しにどうもご贔屓の場所らしい教会にやって来る場面が伏線としてあるが為に案外素直に見せられてしまう。

僕が一番やられたのは、先生が鍵盤に指を触れる場面だけれども・・・。人間がトラウマを克服する場面はやはり感動的なのだ。

昨日読み終えたストリンドベルイは自伝小説「痴人の告白」の中で主人公(即ち作者自身)に「社会には自由な者なんていない。この社会では、各人の運命は隣人の運命と結びついている」と人間関係についてネガティブな発言をさせているのと反対(ある意味、異口同音)に、本作は助け合う為に隣人の必要性をポジティヴに主張する。どちらも真理である。僕もここ数年嫌という程味わっているが、実際には後者を意識させられることのほうが多い。

三木監督は環境描写が弱いと思っていたが、本作の環境描写はよく機能している。カメラもなかなか充実していて大いに見直した。

自由は孤独と同義語である。ポジティヴに表現すれば「自由」であり、ネガティヴに表現すれば「孤独」となる。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2016年05月01日 17:03
人間は日々成長するものですが、成長しない愚か者もおりますがね。
オカピー
2016年05月01日 20:37
ねこのひげさん、こんにちは。

>成長しない愚か者
周囲にうじゃうじゃしている気がします(T_T)

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